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 ――今日も何事もなく夜が明ける。

 冷たく澄んだ空気を吸い込むと頭が冴えていくのが感じられる。

 昨日からの疲労は……行動に問題ない程度には回復できた。

 二晩眠らずとも、横になっていればそれなりに癒えるものだ。

 ヴィンツ殿の結界を信用していない訳ではないが簡単に気は抜けない。

 魔獣への警戒はもちろん、一時とはいえ信用の置けない男が一緒なのだ。

 不埒な真似をすれば今一度鼻っ柱を潰してやろうと思っていたが存外におとなしいので拍子抜けである。

 とはいえ、私はともかくノエルに危険が降りかからなかったので良しとしよう。

 ノエルとリートは寄り添いながらぐっすり眠り、ヴィンツ殿も外套にくるまり寝息を立てていた。

 いましばらくの時が経てば腹ごしらえをして山頂に向け出発となる。

 ……出発となるのだが、それまではゆっくり眠っていればいいと思うのだ。

 私が言えた義理でないのは重々承知している。

 それでも出発まで余裕があるのだから体を労り休めて欲しい。

 しかし、私はそれを直接彼に言えない。

 閉じていた目を片方だけ開けて私は彼のことを覗き見る。

 まだ皆が寝静まるなか、朝焼けの光を頼りにして彼は絵札を地面に並べていた。

 一枚一枚の絵札を真剣に見つめている。

 その行為は彼の日課だ。この任務の間もしているが私達の家でも早朝に必ずしているのを私は知っている。

 古い家だからなのか彼が絵札を並べるパチ、パチ、という特徴的な音が微かに私の部屋にまで聞こえてくるのだ。

 思い返せば、まだ安宿で暮らしていたあの頃から聞こえていた気もする。

 絵札を操る彼の手際は見事なもので実に手慣れていた。

 絵札のそれぞれには差異があるようで彼は手早く仕分け纏めていく。

 その度にパチ、パチ、と独特な音が響いた。

 聞き慣れた音は耳に心地よく覚めたはずの意識が若干微睡んでしまう。

 私にとって彼が発するあの音はもう日常の一つになっていると自覚し複雑な気持ちになる。

 ……いい機会だ。眠りから覚めて起きたフリをしてしまおう。

 このまま耳を傾けていたら本当に寝てしまいそうだ。

 彼はちょうど絵札を透明な箱にしまうところだから驚かせてしまうかもしれない。

 あの箱は使いづらいようで彼は度々絵札を散らばせてしまっている。

 私が驚かせたらまたそうなるかもしれないがその時はその時だ。

 一緒に片付けを手伝おうと思う。

 それにあの箱を使うことは近いうちに無くなるのだ。

 不便だった時の一幕として思い出を残すのも一興ではないか。

 問題は今以上に不便にならなければの話だが。

 ……なにせ針仕事は苦手だからな私。

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