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百余名の犠牲者が出てしまっている魔獣被害。
その調査の為に山に分け入る事となった界人達一行。
日の出と共に起床し行動は開始された。山の麓の獣道から入山し一路山頂を目指すことに。
本格的なトレッキングというよりはキツめのハイキング程度の感覚で登れる山道であった。
生い茂る緑の奥から時おり物音が聞こえてくる。
風か小動物か、原因は何にしろその度に界人とノエルはびくつき警戒した。
ヴィンツ、桜花、ジグラーはそういった物音は気にも留めず進んでいく。
警戒すべき音かそうでないものか判別するのは彼等にとってそう難しい事ではなかった。
次第に界人もノエルも物音ではなく3人の反応を見ることにし、山歩きの方に集中するようになっていった。
「今回、ギルマスが懸念を抱いてるのはいったい『どちら』なのかなんだよね」
先頭をジグラー、次にヴィンツ、それに桜花、界人、ノエル、リートが続く格好で一行は行軍している。
ちょうど三組の真ん中に位置するヴィンツが後続の界人等に言葉を投げた。
「百人越えの死者を出した魔獣被害。ものすごい大事件だけど……これをやったのは複数の魔獣なのか、はたまた一体の強力な魔獣なのか」
ギルドマスターのアイゼンが三組の高位冒険者にパーティーを組ませた理由がそれだった。
「どちらにしても厄介極まるのに変わりはない。でも、結果次第で打つ方策が変わってくる」
複数の魔獣が山岳地帯に潜んでいるのが判明した場合、冒険者ギルドは掃討作戦を敢行する。
調査に当たる三組で対処可能ならばそのまま任務を遂行させ、対処不能と現場が判断すれば持ち帰った情報を元に討伐隊として大量の冒険者を投入する手筈となっていた。
そして、強力な一個体が相手ならば三組の高位冒険者による撃滅となる。
ここまで考えてギルドマスターのアイゼンは彼等三組を現地に派遣したのだ。
ヴィンツは界人等にこの事実を伝える。
「僕としては雑魚の群れをちゃちゃっと片付けて帰りたいんだけど、ギルマスはもうひとつの可能性を考えてなかったのかな」
含みのある言い方でヴィンツは不穏なことを言う。
「強力な魔獣が複数いるって最悪の可能性を……」
遠くから獣の唸り声が聞こえてくる。
それも一頭ではなく複数だ。
界人は恨めしい視線をヴィンツへと向けた。
「自分でフラグ立てて即回収とかあり得ないだろこの人!?」