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日が変わり朝がきた。昨夜は森のなかで野宿。
辺りも闇に包まれてくなかで下手な行動は危険だったからだ。
ミエルが地面に転がる枯れ枝を集め火を焚いてくれその焚き火を囲うようにして就寝した。
土の上にただ寝転がったが布団も無しに熟睡できるわけもなく俺とシンジはろくに寝てない。
時間も関係してたと思う。
日没と同時に寝ることにしたから体感的に夕方の五時とか六時のはず。いやいや寝られるかよ。
普段はスマホを弄ったりとだらだら時間を過ごしてるんで寝るのは深夜なんだ。
おかげで体調は優れない。
遠く森の何処かから獣の鳴き声が響いてきたりして気が気じゃなかったし。
俺とシンジは周囲が明るくなると同時に身を起こした。
「ベッドが恋しいわ」
「同感」
疲れた顔で笑いあい、ほとんど徹夜した互いの健闘を称えあう。
ミエルはといえば、まだぐっすり寝ていた。
「シンジ、ちょうどいいしカードの仕分けしようぜ」
そうシンジに提案する。
昨日判明したバトミリの召喚制限ルール。
これは今後の俺達の行く末を左右しかねない非常に重要な問題だったからだ。
バトミリのカードなら何でも自由に召喚出来ると勝手に解釈してたなか、この問題に早い段階で直面したのはある意味ラッキーと言えた。
間違った解釈のまま昨日みたいな化物と遭遇し直前でカードが召喚出来ない。なんてことになったら詰んでた。
というわけで樹上から僅かに注いでくる朝陽を頼りに仕分け作業を開始する。
「とりあえずは汎用効果のカードを中心に集めよう。カテゴリー縛りとか召喚するのに特殊条件が必要なカードはゲーム上強くても今回は外す感じで」
「サーチャーやリクルーターなんかもいらないよな。デッキ廻すのに有用でもこの世界での召喚にゃ不向きだし」
「あぁ、純粋にシンプルなのがいいだろ。ビートダウン系のデッキに採用される高打点で場持ちが良くて永続効果のあるカード」
「オッケー。ならパーミッションにバーン、特殊勝利系も無しっと」
「…………なに朝から意味わかんない専門用語唱えてるのよあなた達」
どんな風に仕分けてくかシンジと相談しながら作業してるとミエルが起きてきた。
その眼は冷ややかで見覚えがあった。
高校の教室や互いの家でこんな感じでバトミリのカードを広げ熱く話してると、女子生徒と互いの母親に向けられた視線だ。
世界は違えど女子の反応は変わらないのか。
バトミリには女姓専用大会もあり、どこかにはバトミリに理解ある女子がいるはずなんだが俺達には無縁らしい。
現実はどこまでも非常なんだな……。
「それにしても」
地面に並べてたカードの一枚をミエルは手に取る。
「ずいぶん精巧な絵札よね。何度か召喚士の相手はして召喚に使う絵札も見せて貰ったことはあるけど全然違う。こんなの見たこと無い……」
まじまじとカードを観察するミエル。
不味い。どうやらこの世界の召喚士の使うカードとは全然違うモノみたいだ。
まだこの世界の知識にも疎いし弁解するにも正解が分からない。
俺とシンジは静観するしかなかった。
「ま、召喚に使う道具はそれぞれの召喚士で異なるみたいだし違っていて当たり前か」
ミエルはそう言ってカードを元あった場所に戻した。
言い訳しなくて良かった。
勝手に納得してくれたのは実にラッキー。
ピンチを脱したついでにここは知識を増やしておこう。
「ミエルは他に召喚に使う道具ってどんなの見たことあるんだ?」
さりげなく探りを入れる質問を投げてみる。
「他に? うーん、宝珠に、指輪に、編み紐かなぁ」
おー、けっこうバリエーションがあるんだな。
召喚士とやらは様々な道具を使ってモンスターを召喚するみたいだな。
現物を見てないからなんとも言えないが、ミエルが勝手に納得したくらいだしこのまま召喚士と言い張ってもよさそうだ。
「……それで何か作業してるみたいだけどいつ終わる? 昨日は思ったより距離を稼げなかったから早めに出発したいんだけどなー」
うっ、笑顔で問われたけど『圧』を感じるんですが気のせいじゃないよな。
間違いなく不機嫌だ。
俺達のゴミ体力のせいで旅の進捗がよろしくないんですよね。わかってますとも。
「「すぐに終わらせますっ!」」
そして俺はシンジと一緒にマッハで仕分けを終わらせた。