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 アムストゥ王国には平地が乏しい。

 国土の殆どが森林と山であり、自然資源は豊かであるものの人間が暮らしやすいかと問われれば否と言わざるを得ない。

 国家の発展と成長を望むなら山野を切り拓くのは必須事項となり、国の始まりより各地に開拓村がつくられてきた。

 イガヤイムの前身もそんな開拓村の一つであり何世代もの先人の汗と涙が積み重なって今が在る。

 北方域が誇る交易都市となった現在にあっても土地の開墾は続いている。

 イガヤイム周辺の森林地帯に幾つもの村が点在しているのがその証拠だ。

 原初の王命は子々孫々にまで引き継がれ人の領域を拡大し続けていた。

 ヴィンツ、ジグラー、界人等一行は朝早くにイガヤイムを出発して北上。

 名も無き小さな開拓村を二つ過ぎたところで初日の行動は終了となった。

 簡単に聞こえるが一行の移動手段は徒歩である。

 イガヤイムから二つの開拓村を抜けるまでに要した時間は優に十時間を越えている。

 途中、短い休憩を何度か挟んでいるが疲労は着実に溜まっていて、その疲労を明日に残さないため日没前に野営となった。

「……クソが、馬さえあれば」

 ジグラーが文句を垂れる。

 徒歩での移動が不満なのだ。

 ギルドマスターから至急と要請された今回の依頼。

 本来であれば、馬が用意されていてもおかしくはない。

 可及的速やかな解決が望まれる事案だからだ。

 しかし、今回に限ってはそれが無かった。

 この原因はイガヤイムの領主たるカインディル伯爵にある。

 カインディルが王都への遠征に大量の馬を必要としたことで、イガヤイム中の馬が全て徴収されたのだ。

 おかげで商人ギルドはまともに仕事が出来なくなり、冒険者ギルドも割りを食う形となった。

「まぁまぁ仕方ないよ。今夜は寝よう、明日からの本番に備えてね」

 ヴィンツがジグラーを宥めて野営地の四方に何か宝石のようなものを置いていく。

「ヴィンツ殿、それは?」

「ん、あぁこれかい? 魔獣対策の輝石だよ。野盗対策にもなるんだ」

 桜花の問いにヴィンツが説明する。

「この輝石で四方を囲う。すると、外部からこの内側に何かが足を踏み入れたら音で報せてくれるんだ」

「……なるほど、便利ですね。これなら夜間の見張りも必要ない」

「その通り。だから、皆でゆっくり眠れるよ」

「夜間の見張り……あぁ良かった」

 疲労困憊の界人はそれを聞いて一安心する。

 現在地は何もない草っ原でそこに焚き火をし車座になっていた。

 界人はここで一晩ただ明かすのだと思っていたが、考えてみればぐっすり眠るなんて本来なら許されないと気づいた。

 夜は獣達の時間。

 魔獣だけでなく、野生の肉食獣に人道から外れた(ケダモノ)達にも警戒しなくてはならなかったのだ。

 それが晴れて免除されたと知り界人は顔を綻ばせる。

「小賢しい魔術は気に喰わねぇが、こういう時は役に立つな」

 ジグラーは鼻を鳴らして地面に寝転がる。

 交流を深める気など更々なく界人達に背を向けていた。

「まぁ、彼はあの通りだからね。僕達は僕達でやろうか」

 ヴィンツのこの言葉を皮切りに食事の時間となった。

 リートが牽く荷車の中から食糧が取り出されてゆく。

「――これは!?」

 その作業の中、ヴィンツが驚きの声を上げる。

 彼の視線の先にはダチョウの卵大のこの世界でも珍しい巨大な卵が荷台に鎮座していた。

 ヴィンツの反応を察し、界人は機先を制して言うのであった。

「これは食糧じゃありませんからね」

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