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ギルドマスターからの突然の命令。
俺を含め執務室に呼び出された3人全員が面食らってた。
「ちょっとちょっとギルマス、急に呼び出されたと思ったら合同での仕事っていったい全体どうしたっていうんですか?」
俺が思ってた疑問を若めの男の人が代弁してくれた。
冒険者には珍しく、線が細く柔らかな雰囲気を持つ魔術師っぽい見た目の男の人。
年齢は二十歳前後くらいで紺色のローブを纏い、腰に剣を差して背中には杖を背負っていた。
剣と杖の二つ使い……まさかの魔法剣士か?
RPGなんかじゃお決まりの万能職なのだろうか。
「説明してやる。実はな……」
俺が初対面のお兄さんに関心を惹かれてるとギルドマスターがこうなった経緯を話しだした。
なんでもイガヤイムの今後の方針を決める会議の席に普段は来ない領主様が現れ、いろんなギルド相手に無理難題をふっかけて大暴れしたらしい。
「街道の警備はまだしも……なんで第一位冒険者を貸せだなんて」
「ヴィンツ、お前もそう思うだろう。ワシも当然そう思ったさ」
魔法剣士かもしれないお兄さんの名前はヴィンツというらしい。
会議での出来事を思い出してるのか、ギルドマスターの顔が険しくなってる。
「聞いてみりゃ、護衛に欲しいんだとよ第一位の冒険者をだ。ふざけんなって言ってやりたかったぜ」
言ってやりたかったって事は、言ってないんだな。
べらんめえ口調のギルドマスターだが、きちんとTPOはわきまえてるのか。
「……王都まで整備された街道はあるものの、伯爵様の言うように各地で治安が悪化している。そのせいで野盗ばかりでなく、人心が乱されることで魔獣発生の危険までが増える。つまり、第一位冒険者を貸せとは」
「そのとおり。魔獣への備えだ」
「伯爵様の私兵はあくまでも対人間を想定した訓練を積んだ者ばかり、魔獣相手には分が悪いと踏んだんでしょうね」
「大貴族のくせに驕りなく己の持つ力を測れてるたぁご立派なことよ。でもな、それで下々のワシ等にしわ寄せが来るんじゃたまったもんじゃねえ」
険しかった顔がげんなりとした顔に変わるギルドマスター。
相当に会議が堪えたんだな。
それにしても2人の会話を聞く限り、ヴィンツさんは優秀な人間っぽいな。
ギルドマスターの話を理解してるのはもちろん、得られた僅かな情報から先を読んで会話を円滑に無駄なく進めてる。
そんな器用な芸当は俺には無理だ。
「それで『彼』を貸したんですか?」
「馬鹿言え、丁重にお断りしたよ」
「丁重にお断りって……あの伯爵様が簡単に引き下がったんですか?」
「そりゃあお前ちっとばっかし揉めたに決まってんだろうが」
ギルドマスターのこの言葉にヴィンツさんはゴクンと唾を飲み込んでた。
重そうに喉が動くのが見えて何故かこっちまで緊張した。
「心配すんな。解決したしギルドにお咎めも無ぇからよ」
「そうですか……では、解決とはどんな形で?」
「第四位を貸し出すので納得させたよ」
「彼女をですか、てっきり第一位が駄目なら第二位の双子をと伯爵様なら言うと思ってましたよ」
「言ったぞ」
「え?」
「第一位はいま国からの依頼で出張ってると言ったら、あの若造、お前が予想した通りにならば第二位で構わんとか抜かしやがったぜ。ハハハ!」
愉快そうに高笑いするギルドマスター。
冒険者ギルドに加入当初の宴会でギルドマスターの情緒がおかしいと感じたことがあったっけか。
あの時は酒のせいだと思ってたけど、このギルドマスターの情緒がただ不安定なだけなのかもな。
「不敬ですよギルマス。でも、第二位の双子から第四位の彼女にお鉢が回っていった理由はなんです?」
「第二位も任務中だって嘘吐いてやった。ちょうど遠乗りでしばらく帰らねえしバレねぇと思ってよ。うちのギルドは第三位も空位になってっから自ずと第四位ってな具合だ。貸したくても第三位の適格者がいないんだから仕方ねぇ。カインディルの若造もそれを知るや、渋々納得してたぜ」
以上で説明は終わりらしい。
「え、いまのどこに緊急で集められる理由が?」
「確かにそうだね」
「あ、やべ……」
長々とされた説明だったが3名の冒険者に召集が掛けられた理由が見当たらず、自然と口を出てしまった言葉だった。
あー失敗した。
変に目立った気がする。
「理由なら単純だ。カインディルに連れてかれた第四位がやるはずだった仕事。それをお前らに任せたいんだよ」
「…………メンドクセェ、俺は帰らせて貰うぜジジィ」
ギルドマスターの言葉に今まで黙っていた最後の冒険者が口を開いた。
筋肉隆々で身長2メートル近い半裸の大男。
赤みがかった長髪を揺らし大男は執務室から去ろうとする。
「待て、ジグラー。話はまだ終わっちゃいねぇぞ」
部屋にいた最後の冒険者の名は――ジグラー。
俺とはちょっとした因縁のある相手なのだった。