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「我等、冒険者ギルドに街道の警備を……ですか?」

 カインディル伯爵主導による会議が始まる。

 まず矛先が向けられたのは冒険者ギルドであった。

「あぁ、そうだ。アイゼン、お前にはそれを頼みたいのだ」

 アイゼン――冒険者ギルドのギルドマスターは困った表情をしながら慎重に言葉を連ねた。

「お言葉ですが伯爵様。それは少々難しく、こちらは周辺の魔獣退治に忙しく人手が……」

「本当にそうか?」

「……と、いいますと」

「お前が言っているのは腕利きの冒険者の事だろう? 熟達した冒険者が魔獣退治に忙しいのは承知しているとも。私が言っているのはそれ以外の者だ」

「…………」

 伯爵の言葉にギルドマスターのアイゼンは言葉を詰まらせる。

 伯爵が言うそれ以外の者とは新人冒険者の事だ。

 単純ながら厳しい雑務に日々追われる新人冒険者は捉えようによっては暇だと言える。

 雑務で稼いだ金で装備を整え、いずれ魔獣退治に赴くのならその過程にある雑務を街道警備に代えろと伯爵は暗に言ったのである。

「何故に街道警備の任を我等に? いままでのようにイガヤイムの衛士が行うのでは駄目なのですか?」

 伯爵の問いには答えず、アイゼンは理由を尋ねた。

 どうして街道警備を冒険者ギルドに任せたいのか。その納得のいく理由を。

「……あれは二月程前だったか、このイガヤイム近辺に野盗が頻出するようになったであろう?」

「えぇ、そんな事もありましたな」

 いまだ記憶に新しい事件だけあり、アイゼンもそれは知っている。

 弱者のみを狙い少額の金品を掠めとる卑劣かつ悪質な野盗が出たせいで、一時期イガヤイムへ寄りつく人間が減ってしまった。

 おかげで税収に差し障りが出るかもしれない事態になりかけ、領主であるカインディル伯爵が自らの手勢を動かそうかという段階にまでなった。

 これを解決したのが2人の衛士。どうやってか数人の野盗を生きたまま拘束し、代官へと引き渡した。

 野盗は拷問されると簡単に口を割って隠れ家が発見。

 頭目含む野盗のすべてが一網打尽となった。

「あの野盗どもだがな、エタウィから流れて来たのだそうだ」

 イガヤイムから更に北にある町の名が伯爵の口から出る。

(エタウィか。悪徳と退廃の町といわれてる魔窟、あそこからの流れ者なら珍しくもない)

 北方域の汚点、エタウィを知らぬ者はこの場にいない。

 力こそ絶対の法と信じるならず者に溢れるあの町からは、町の気風に馴染めずに小悪党が逃げ出す事がままある。

 その小悪党が野盗化し、周辺の村落に被害をもたらすのは日常茶飯事なのだ。

「それだけならば大した話でもない。しかし、だ。この二月の間にエタウィから来たという者による被害が例年を遥かに超えて報告されているのだよ」

 伯爵は指折り町の名を挙げる。

「私が治める、イガヤイム、イァデンス、アミスクフ、アマイルォクだけではなく。エタウィに近い北方域のそこかしこで似た事件が起こっている」

「それは……」

 まるで、エタウィから逃げるようにして悪人が散っているかのようだ。

「イガヤイムでの被害は二月前の一件のみに留まっているが、それもいつまで続くか分からんだろう。それ故に先手を打ち警備の人員を増やしたかったのだ」

「伯爵様のお考え、このアイゼンいまさらながら理解致しました。お手間を取らせ申し訳ありません」

「よい、許そう」

 伯爵の言葉には確かな利があった。

 先手を打ち街道警備の人員を増やさねば、いつエタウィから来るかもしれないならず者に対処など出来ない。

 その為には本職の衛士だけでなく、多少の戦闘訓練を受けてる新人冒険者でも現場に駆り出し備える必要がある。

 だが、それだけでは伯爵が他のギルドマスターにとった苛烈な対応の答えにはならない。

 理由として弱すぎる。

 しかし、その理由をアイゼンはすぐに知る事となる。

「それとだアイゼン、お前にはもう一つ頼みがある」

「は、我等冒険者ギルドに出来る事であればなんなりと」

「では、アイゼン」

 伯爵が頼みを口にする。

「――第一位の冒険者を私に貸せ」

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