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【カード名:月影に踊る暗殺者】
【等級:中級】
【属性:風】
【所持スロット:◆◆◆◆◇】
【種族:ヒューマン】
【戦闘力:1550】
【効果:
『暗殺術』
自分のターンにのみ発動が可能。相手フィールドのモンスターを一体選択し破壊できる】
【オリエント・ヴェルト】
以上が、バトミリのモンスター。【月影に踊る暗殺者】のカード概要。
「まさか、こんな雑魚カードであんなデカイ狼が倒せるなんてな」
「この世に不必要なカードなんて一枚も無い。とは良く言ったもんだぜ」
俺とシンジは窮地を救ってくれた【月影に踊る暗殺者】のカードと実体化した本物をまじまじ眺め感謝した。
一定時間したら消えるのかと思ったが【月影に踊る暗殺者】は消えなかった。
シンジの傍らに直立不動で控えてる。
話し掛けても反応は返ってこないし、まるで人形みたいだ。
シンジも言ってたが、バトミリプレイヤーからすればこのモンスター【月影に踊る暗殺者】は雑魚だ。
デッキを組もうとしたとき絶対に入れないと断言できるくらいには弱い。
一見すると強そうな効果だが熟練のバトミリプレイヤーからするといろいろ問題があったりする。
戦闘力の端数だったり、ターン制限効果だったり、『できる』というタイミングを逃す可能性が高い効果テキストだったりと弱さを挙げればキリがないし、それを考えると長くなるからやめとこう。
とにかく、いま重要なのは……
「俺達はバトミリのカードを何故か現実に召喚出来るようになった」
「そんでもってオレ達はいま異世界にいるってことで間違いないんだよな」
「……あぁ」
あのガルムとかいう化物との戦闘。
いまでも夢であってくれと願うけど実際に体験したあれは紛う事なき現実なんだ。
そこから導きだされる結論は一つ。
ここは俺達の生きてた世界――地球じゃあないってことだ。
「異世界転移とか笑えねぇっての……マジかよ」
シンジはまた頭を抱えた。
俺もしばらくそうしてたいよ。異世界転移なんて流行りの深夜アニメの定番設定じゃねえか。
でもな、シンジ。状況は刻一刻と変化してるんだ。
状況の変化に取り残されてたら取り返しのつかない最悪の事態になる。
バトミリだってそうじゃないか。相手のプレイをただ眺めて盤面が整うのを待ってるだけじゃないだろ。
こっちも素早く対処して相手の盤面を崩すなり、自分の布陣を万全なものにしたりするじゃんか。
そうしてシンジを励ましてやってると、
「あのさ、そろそろ今後の方針について話したいんだけど二人での話し合いは済んだ?」
おずおずと少女が話し掛けてきた。
「いや、もう少し掛かると思う。だから待っててくれ」
「あ、うん……わかった」
俺の言葉に少女は素直に距離を取った。
俺達から離れること数メートル。適当な木に背中を預け視線だけをこちらに送ってくる。
その視線を敢えて無視し俺はシンジと話す。
あの女の子のことも気にはなるが、とりあえずは友人のシンジが最優先だ。
こんな状況でメンタルがボロボロだからな。
しっかりケアしてやらないと、いつかポッキリ折れちまいそうだ。
って、それは俺も同じなはずなのにな。
「シンジ、さっきも言ったけどまずはこの森から脱出だ。また巨大狼に襲われたくないだろ?」
「あぁ、それは嫌だ」
「だろ? それにもしかしたら案外早く元の世界に帰れるかもしれないぜ」
「え、それ本当か!」
「考えてもみろよ。あんな巨大な狼がいる世界なんだぜ。異世界モノのお約束として本物の魔法使いだっているだろうさ」
それは希望的観測だった。
いるかもわからない魔法使いを見つけて帰還の魔法陣でも描いてもらって家に帰ろう。
そう説得してシンジを奮い立たせた。
あとはあの女の子なら現地人だし近くの町の場所くらい知ってるだろう。
なんて言葉も使い鼓舞する。
こうしてシンジも調子を取り戻したのだった。
……はたして、必死に鼓舞したのはシンジのためだけだったのか。
元気になったシンジの姿を見て、僅かに胸につかえるものを感じた。