36
「……改めまして、ノエルです。どうぞよろしく」
テンション低くノエルが俺達に挨拶してくれた。
さっきまでおっとりした喋り方だっただけにその変化が悲惨さをいや増している。
なんでこんなに沈んでるかといえばノエルの乗ってたソリが大破したからである。
魔獣討伐の尊い犠牲としてソリは勇敢に逝った。
「……あ、わたしのことはお気になさらず。村の方達とお話ししなきゃならないこともあるでしょうし、どうぞどうぞ……あはは」
心ここにあらずというか、現実逃避というか、ノエルの精神はだいぶ病んでた。
こんな状態で言われるままノエルをほっとけるほど鬼じゃない。
アフターケアに回ろうとしたら、
「そうですか。では、私は村長殿に依頼完了の確認とギルドへの報告用に一筆貰ってきますので」
桜花はノエルと俺を広場の端に残してさっさと行ってしまった。
その所業、まさに鬼――いや、侍か。
合理主義的なのかなんなのか桜花さん、ちょっと冷たくない?
ソリ壊したのあなたですよね?
去っていく背中に視線だけ飛ばして残されたノエルのケアに専念することにした。
気のせいか病み度が増してる気がする。
自分であぁは言ったが、実際に去られると思うとこがあるんだろうな。
「……いいんですよ。わたし落ちこぼれでいつも失敗ばかりで遅かれ早かれソリは壊れてましたもん。だったら、融界大戦の助けになっただけマシですから」
出たわ融界大戦。
バトミリのふわふわ謎設定だ。
今回、急だったノエルの召喚。彼女を召喚した際も「力を貸してくれ」の一言で二つ返事で了解を得られたのもそれが理由。
桜花の時と同じくノエルにはちゃんと人格があり過去があり、本人も言ってたようにフレーバーテキストに沿った形で記憶もあるみたいなんだよな。
で、これまた桜花と同じで自分が呼ばれた理由は融界大戦のため。
召喚士の俺の役に立ち自分の世界も救うんだ。とくる。
「……でも、なんでわたしみたいな落ちこぼれの見習いサンタを召喚したんですか? 召喚士様?」
「それは……」
消去法でした。とは、口が裂けても言えない。
あの場面で最後に残った数枚のカード。
凶暴そうなドラゴンやカッコいい音速戦闘機など、村に速く向かえそうなカードは色々あったが召喚してからの事も考慮したんだ。
まず獣系はダメ。
理由は意志疎通出来るか不明だったからだ。
意志疎通不可能だった場合、魔獣以外の脅威が増えるだけになるしこちらが危うくなる。
次に機械系もダメ。
理由はオーバーテクノロジーが過ぎるから。
剣と魔法が主流の世界観をぶち壊し、後々厄介ごとに巻き込まれそうなんでアウト。
そんな条件を掻い潜ったのがノエルだった。
カードイラストからも、フレーバーテキストからもノエルが最良だったんだ。
「いずれ解る時が来る。いまは召喚した理由は話せないんだ……その時が来るまではなにがあってもな」
真実は話せない。
ノエルを更に傷つけることになるだけだから。
なんで適当に誤魔化してみた。
いままで見てきた漫画やアニメを参考にいかにもそれっぽい意味深なセリフを吐いておく。
「いずれ解るその時?」
ノエルが俺の言葉に首を傾げた。
追及されるのを恐れたけど救いの声が掛けられる。
「お待たせしました。村長殿との各種確認と手続きが完了しました」
仕事を終えた桜花が帰還してきた。
「討伐した魔獣の方は村で一時保管してもらい我々がギルドに報告してから専門の職員が回収に赴くことになりました」
なるほど、そりゃそうなるか。
猪型の魔獣は村にある家屋と大差ないデカさだ。
ギルドに持ち帰ろうにも冒険者数人では絶対に不可能。
きっと解体なりして運搬部隊でも編成しないとダメなんだろう。
場所もかなりの辺境だしな。
「それとノエル」
「へ?」
突然、桜花に自分の名を呼ばれノエルは呆けた声を上げた。
「あとで確認をお願いすると思いますから、その時はよろしく頼みます」
「確認?」
ノエルがまた首を傾げた。
桜花は倒れ伏す魔獣を指差した。
魔獣の周りにはさっきまで怯えていたはずの村人が集まっていて地面から何か拾ってる。
「壊してしまったソリの破片を拾って貰っています。イヤガイムの町に戻ったら直してもらいましょう」
なんと、桜花はあの粉々になったソリを直すつもりらしい。
そのために村人に回収を頼んだのだ。
……冷たいとか思ってゴメン桜花。
「桜花ちゃん……ありがどう~!」
これにはノエルも泣きながら桜花に抱きついていった。
涙を流しながら顔をひっつかせるので桜花も困り顔だ。
「なんつーか締まんない終わり方だな」
依頼をこなして颯爽と去ってくのが冒険者っぽいと思うんだけど、新米冒険者の俺達ならこのくらいなのかもしれない。
これでいいんだろうと納得しとく。
こうして、俺達の初依頼は達成されたのだった。




