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……選択肢は正直かなりあったんだ。
召喚するなら初級、中級のどちらかにしようとは思ってたけど選べるカードの種類は多かった。
あの時、何よりも優先されたのは速さ。
だからとりあえず依頼のあった村まで早く行くことのできるモンスターを探した。
村は山間にあってこれからどんどん道が険しくなるのも予想できたからそれも考慮しといた。
結果、何枚かが残ったがその中からもさらに厳選。
そんで、残ったのが――
「わわわ、リートったら止まってぇー!?」
このサンタ娘である。
【カード名:聖夜を賑わすサンタ見習い ノエル】
【等級:中級】
【属性:光】
【所持スロット:◆◆◇◇◇】
【種族:ヒューマン】
【戦闘力:800】
【まだ見習いのサンタクロース。相棒のトナカイのリートと共に立派なサンタクロースを目指し日々精進。一人前には程遠く失敗続きのドジっ娘サンタだ】
【オクシデンツライン】
現在、依頼があった村の上空をサンタ娘――ノエルのソリに同乗しながら滑空している。
状況だけを聞くと聞こえだけはいいが、絶賛大ピンチの真っ只中だ。
「おいおいスピード落とせって! 死ぬ、死ぬ、死ぬ!?」
手綱を握るノエルに向かって叫ぶ。
金髪碧眼でサンタ衣装を纏ってるノエル。年齢は十代前半くらいで俺と桜花とそう変わらない。
「ごめんなさ~い! リートが~リートが言うことを~!」
何故大ピンチかって、ソリがジェットコースターみたいに空中を駆けずり回ってるからだ。
このノエル、フレーバーテキストにあるとおりに失敗続きのドジっ娘サンタで間違いないらしい。
相棒であるトナカイとの意志疎通がまるで出来てない。
犬の散歩で引きずられてしまう子供みたいにトナカイが好き勝手にソリを牽くもんだから怖いのなんの。
偶然にも目的の村上空に辿り着けたのは奇跡としか言えない。
しかも、タイミングが良いのか悪いのか村は魔獣に襲われてるところだった。
広場に集まる村人を巨大な猪型の魔獣が襲おうとしてる。
間に合って良かった……ただ俺達の現状じゃどうにも出来ない。
俺達が位置してるのは村の上空十数メートル。もっと高度が下がらないと降りることもままならない。
ソリからこのまま飛び降りたら下が雪でも骨折する高さだ。
「ノエル、なんとか広場のすぐ近くに下ろせないでしょうか?」
「無理だよー。リートったら知らない場所だからか気が立ってるみたいで、しばらくは落ち着いてくれそうにないの~!」
涙目で手綱を握るノエルが桜花の頼みを却下する。
ノエルも細腕で頑張ってるみたいだがトナカイのリートは言うことを聞いてくれない。
「そうですか……馬はあまり得意ではないのですが仕方ありませんね」
不穏な音の響きが隣から漏れ聞こえてきて背筋が寒くなった。
「ぇ、あの、桜花さん?」
何をしようというのか問う前に桜花が荷台から消える。
「失礼、手綱を拝借します」
言うが早いか桜花は御者台のノエルから手綱を奪うとソリを牽くリートに跨がってしまう。
「「えっ!?」」
ノエルも俺も驚くしかなかった。
止める暇もない早業だった。
「大丈夫、落ち着いて。どうか静かに……」
急に跨がられたからかリートは最初不機嫌そうに暴れたものの桜花の穏やかな声に従い次第に落ち着きを取り戻した。
「うぅ、リートの浮気者ぉ……わたしの言うことは全然聞いてくれなかったくせにぃ」
御者台のノエルが悔しげな声を漏らすが結果オーライとしとこう。
絶叫マシンみたいな機動も収まり、安全に降下できるならそれでいいじゃないか。
「落ち着いたようですね。では、申し訳ありませんが協力してくださいリート」
桜花がリートの手綱を勇ましく引いた。
するとリートがまた加速しだした。
それもさっきより速くだ。
「お、桜花、ちょっと速くない? せっかくリートが落ち着いたんならもう少しゆっくりと」
「いえ、時は一刻を争います。魔獣の爪牙はもう彼等の目前にあるのです」
下に目線を向けると魔獣が広場のすぐ近くまで迫ってた。
「一刻の猶予もありません。リートも協力してくれています。ですので」
「……ですので?」
加速し続け降下するソリに一抹の不安を覚えながらも桜花の答えを待った。
「――このまま突っ込みます!」
「そうだよねぇ!? うわぁぁぁあ!!」