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翌朝、夜明け前の冒険者ギルドに俺達はいた。
「……眠ぃ、なんでこんなことに」
時刻は朝の5時前くらいか?
時計がないから勘に頼る他ない。当たらずも遠からずってとこじゃないだろうか。
朝の冷気が肌寒く、遠くの空が白んできてる頃合いだってのに冒険者ギルドは活発的だ。
これからクエストに赴こうって冒険者でごった返してて、受付のお姉さん達も慌ただしく働いてた。
「二人とも、遅れずに来たようだな」
俺と桜花を出迎えたのはギルドマスター。
こんな事態になった元凶の一人だ。
ギルドマスターは悪びれもせずに話を進める。
「必要な物はこちらで用意しておいた。こっちにも責任があるとはいえ、こんな計らいは今回限りの特別だというのを忘れんようにな」
ギルドマスターの足元にはパンッパンに膨らんだ立派な背嚢が二つ。
本格的な山登りに使われそうなやつで、中身は食糧に野営の為の道具に他はロープやら照明器具やら道中で役立つものだと説明された。
「……全然ファンタジーじゃねえ」
背嚢を一つ掴んでみた。
重量は10キロを超えてそうだった。
朝も早くからこんなの担いで移動しないといけないなんて苦行だろ。
ゲームならアイテムボックスって便利なものがあるのにさ。
それさえあれば重い荷物もなんのそのだ。
このファンタジー感満載な世界ならあるだろアイテムボックスくらい。
ギルドマスターにそれとなく尋ねてみた。
アイテムボックスと言っても伝わらないと考え要点を掻い摘んで説明する。
「空間の拡張と時間停止に重量軽減を兼ね備える背嚢だぁ? 背嚢じゃなくてもいい? 物はなんだろうと似た機能がある代物? おいおい寝ぼけてんじゃないぞ坊主」
その口振りからしてもアイテムボックスは存在しないっぽい。
冒険者ギルドのギルドマスターって立場の人間が言うんだからそうなんだろう。
「まったくしっかりしてくれ。寝ぼけたまま片付けられる楽な依頼じゃねぇんだ。気ぃ引き締めて行ってこいっ!」
ギルドマスターに活を入れられ俺達は急かされるまま旅立つことに。
冒険者ギルドからすぐそばの西門を抜けてイガヤイムの町を飛び出した。
「……あぁもう、いいや。ここまで来たらなるようにしかならないよな」
町を出て街道に立ったらネガティブでいるのが馬鹿らしくなった。
成り行き任せで突っ走ってやんよと逆にやけっぱちになる。
「そうですね、なるようにしかなりませんとも。この剣がどれ程あなたのお役に立てるかわかりませんが行きましょう界人」
桜花も力強く助力を約束してくれてる。
これが一番心強い。一人じゃないって感じれて頼もしいんだ。
「それに比べて……」
胸元にあるボディバッグに視線を落とす。
現在、背嚢を背負ってるせいで俺はボディバッグを前面にずらしてる。
中身はこの世界で俺が生き抜くための生命線たるバトミリのカード。
安宿に置いといて盗まれでもしたらリアルな死活問題に発展するから常に持ち歩いてる。
そして、ボディバッグの中身はもう一つある。
「【希望の龍卵】くんはな~」
初めて召喚したモンスターだから愛着はあるものの完全お荷物な【希望の龍卵】。
ボディバッグの容量を圧迫するだけで役立つ未来が全然浮かばないんだよな。
「ほんと、どうしたもんかなー」
どうにか活路を見出だせないかと、バトミリの方のカードを取り出す。
見たところでバニラモンスター。有用な効果テキストなんて無いのはわかってるのにな。
この活躍して欲しいって気持ちは親心なのかもしれない。
【カード名:希望の龍卵】
【等級:初級】
【属性:光】
【所持スロット:◇◇◇◇◇】
【種族:ドラゴン】
【戦闘力:0】
【揺籃の内には無限の可能性が眠っている。
それは光にも闇にもなれる無色の未来。
――目覚めの時は近い】
【ルクス・アカシヤ】
「……あれ?」
気のせいだろうか?
なんか、前に見たときとフレーバーテキストの内容が違うような……気がしないでも……んん?
「なにしてるんですか界人。早く出発しないと他の冒険者にどんどん先を行かれてしまいますよ」
桜花はそう言って先に歩いてってしまう。
10キロ超えの荷物を背負ってるのに軽快な動きだ。
ポケットにカードを仕舞って俺は桜花の後を追いかけた。
フレーバーテキストの内容はきっと俺の勘違いだろう。
「待った待った、すぐ行くから!」