25
服を買ったあとはイガヤイムの町を見て回ることになった。
まともな服装になったおかげで大手を振って町中を歩けるからな。
「しばらく拠点として滞在する町の詳細は知っておいた方がいいだろ」
と言えば桜花も賛成してくれた。まぁ、ぶっちゃけるとほぼ観光気分だ。
町並みだけ見ればヨーロッパの古都を観光してるみたいで楽しい。
異世界でサバイバルしなきゃならないって現状を忘れればだが。
イガヤイムの町は交易の要所と言われてるだけあってデカかった。
俺達が入った門以外にあと二つ同じのがありそこからも人が出入りしてた。
場所は町の西と南。それぞれ別の道に続いててそれぞれ用向きが違うらしい。
「西門は冒険者と呼ばれる退魔を生業とする人間が主に利用するようです。西門より続く土地では魔獣なる獣の被害が頻発し仕事に困らないとのことです」
そう言って桜花は俺に串焼きをくれた。
露店で買った今日の昼食だ。
なんの肉かは怖くて聞かないし聞いても分からんだろう。
それにしても、
「冒険者かぁ……」
桜花が仕入れてくれた情報に、いよいよファンタジーになってきたなと感慨深い気持ちになる。
串焼き屋の店主から桜花が得た冒険者という情報。
これには興奮せざるを得ない。
「この世界には冒険者がいるのか」
ファンタジーものの定番職業だ。
クエストを受注して、採集から、探索から、モンスター退治までやってのけるマルチな職業。
「その冒険者なる職業を界人は知ってるのですか?」
俺の様子から何か感じ取ったのだろう。桜花がそう聞いてきた。
「あぁ、知ってるよ。冒険者ってのは……」
知識を貰ってばかりだった桜花に教えられるのが嬉しくて俺は冒険者について知り得る全てを喋った。
ゲームや小説で得た知識でこの世界でのそれとは違うかもと言っておくのは忘れない。
「なるほど、つまるところはさまざまな依頼をこなし金子を得る職なのですね?」
「そうそう、そんなかんじ」
「身分や性別も関係なしになれると?」
「うんうん」
「必要なのは己が力のみ。そうなのですね?」
「そうなのです」
桜花からの問いに首を縦に振りまくる。
「では界人。私達も冒険者になりましょうっ!」
「うん、冒険者になろ…………え?」
なんか、怖いこと桜花が言わなかったか?
「まだ懐に余裕はありますが、それもいずれは尽きます。何処かで働き稼ごうと考えていましたが、うってつけの仕事があるではありませんか」
えーと、待って待って桜花さん。ヒートアップしてるとこ悪いが冒険者なんてならないよ。
自ら危険に飛び込むとかバカじゃないの?
俺の目標はあくまで元の世界に戻ること。
少しばかりの日銭を稼ぎつつ情報収集して帰還方法を探す算段なんだよ。
それを冒険者になる?
冗談じゃない。
見るとやるとでは大違いって言葉があるがまさにそれ。
冒険者になるってことは初日に出会ったガルムみたいなのと戦うことを意味してる。
ここはキッパリ断らんと。
「ちょっと待って桜花、俺は」
「いえ、待ちません。善は急げというではありませんか。さっそく冒険者になりに行きますよ界人っ!」
「ぇ、ちょ、待っ、ちから強っ!? うわぁ~!」
野盗数人を瞬殺する桜花の腕力に抵抗出来るわけもなく俺は強引に連行されるのだった。