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興奮気味にわめき散らすシンジを横目に俺は自分でも驚くほどに冷静だった。
謎の不可思議体験に困惑し戸惑っていたのは間違いないのだが、自分より先に隣で騒いでる人間がいてくれたことで逆に落ち着けたようだ。
これで自分までパニックに陥っていたら目も当てられない悲惨さだったろう。
不幸中の幸いにとりあえずは感謝しとく。
とりあえずは現状を確認することから始めよう。
俺の名前は、久我山界人。年齢は16歳。
特に語ることなどないその辺にいる普通の高校生、と。
自己認識に間違いがないか確認してみるが問題はなさそうだ。
次は現在地を確認。
「……うん、森だな」
馬鹿みたいにデカい木が立ち並ぶ森のなかに俺と同級生のシンジはいた。
薄暗いけど時刻は昼間っぽい。枝葉の隙間から日光が差し込んできてる。
一瞬前までいたリサイクルショップの面影は周囲をよーく見回しても皆無。
というか、見回して思ったがここ日本かも怪しいぞ。
周りに生えてる木がとにかく馬鹿デカい。
一度、テレビで屋久島の樹齢何千年って杉の木を見たがあれより遥かにデカかったりする。
杉の木より、セコイアなんかのほうがデカさ的にも近い気がするな。
こんな木が普通に生えてる森が日本にあるなんて聞いたことがない。
ましてや、俺とシンジが暮らしてるのは関東圏の中心だ。
「マジに洒落にならない異常事態だな」
ツーっと冷や汗が首筋を伝う。
現状を確認したもののなにが起こったのかまるで理解できなかった。
結果は心臓の鼓動がいくぶん早くなり呼吸が浅くなっただけだ。
「持ち物はボディバッグに財布にスマホだけ、か」
リサイクルショップに入った時から変わってなかった。
「あとは……」
地面に散乱してるバトミリのカード。
リサイクルショップで触ろうとしていた小さなプラスチックケース。
そのなかに入っていたカードが地面に散っていた。
「ど、どうなってんだよ。オレ達はリサイクルショップにいた……はずだよな?」
盛大にわめき散らしたことで少しは冷静さを取り戻したシンジが俺に不安げな視線を向けた。
「あぁ。でも、今はどうみても違う。俺も意味わかんねえよ」
同意すると膝を地面に落としシンジは頭を抱えた。
これは夢だ。現実じゃない。とでも言って欲しかったのかもしれないがショックを受けてる場合じゃないぞシンジ。
俺達は一瞬のうちにわけのわからん森に来ちまってる。
現状を悲観する前に行動するのが先決だろ。
漫画でもアニメでもハリウッド映画でもこういう状況に陥った場合、まごついているとろくな目に合わないんだ。
俺はそのことを必死に伝えてなんとかシンジを立ち上がらせた。
「まずはこの森から脱け出すのを目的にしよう。ほら、落ちてるカード拾ってくれ」
行動の指針もなんとなく決めたのでシンジと一緒にカードを拾い集める。
片手で掴める程度のプラスチックケースに入っていた量だ。
せいぜいが数百枚。二人でやれば五分と掛からず回収できる。
「こんなときまでバトミリかよ。さすがに引くわ」
「バーカ、俺だってそこまでのバトミリオタクじゃねえっての」
こんな極限状況下でバトミリのカード収集を優先するわけないだろうが。
バトミリのカードは紙製だ。
いざとなれば火付け用に、焚き火の燃料にと色々使えたりするかもしれない。
森の出口までどれだけあるかもわからないんだ。
使えそうなもんは集めとくに越したことはない。
「あー、そういうことか……」
シンジにもそれを拾いながら説明してやると納得したようだが、どこか上の空だった。
拾ってたバトミリのカードからシンジに視線を向けると、シンジの野郎あろうことかサボっていた。
地面のカードを回収する手は止まっていて、手に持ったバトミリのカードをじっくりと眺めていた。
「おい、シンジ。お前なにしてんだよ」
「ん、いやそれがよ」
そうして俺に持っていたカードを手渡してきた。
「こ、これはっ!」
手渡されたカードに俺は驚愕する。
「汎用魔法カードがこんなに! こっちは誘発即時系効果のモンスターカード!」
それは本来、陳列棚に飾られたり個別にファイリングされ管理されるべき貴重で高価なカード群だった。
「あのリサイクルショップやっぱり当たりだったんだよ。このケース内、一律一枚50円だったろ。ほとんど効果無しのバニラモンスターやゴミ魔法だったけど少し探しただけでレアなお宝がそんだけあったんだぜ」
シンジは自慢げに語ってた。
「つうことは……まさか」
そこからの俺達の行動は早かった。
二人して散らばったカードを集めると貴重なレアカードを分類し整理した。
悲しいかなそれはバトミリプレイヤーの性。
大量のレアカードを見ては前言を即時撤回せねばならない。
極限状況下にあってもバトミリを優先せずにはいられないほどに、自覚ないままバトミリに調教されてたのか。
もしくは……無意識のまま現実逃避に走ってたのかもな。
結局、気付けば五分なんてとっくに過ぎ俺とシンジは額に良い汗を浮かべてカードの回収と分別を完了したのだった。