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 何はともあれ俺達は目的の町に到着した。

「本当にありがとうよ~」

 陽が沈むより前に荷馬車は町の外に到着し、爺さんは縛りあげた野盗と俺達を下ろして自らの帰路についた。

 急げば日没前に村まで帰れるからと慌ただしい別れになってしまったのが心苦しい。

 去り際に何度も何度も振り返り感謝を言ってくれてたがそれは俺の台詞だ。

 爺さんがいなければ俺はいまもシンジとミエルに置いてかれたあの場所で腐ってたことだろう。

「爺さんも元気でー!」

 だから全力で見送った。

 荷馬車が小さな影になるまで手を振っていた。

 さて、爺さんの見送りも無事に済んだしここからは自分達の事に専念だ。

 俺と桜花がいるのは兵士っぽい門番2人が待ち構える町の入口近く。

 街道から町まではそのまま道が続いてて大きな門が町に入ろうとする者の行く手を阻んでいた。

「中世が舞台の映画で見たまんまだ」

 町への出入口は見える限りじゃその門だけ。

 なぜなら町の周囲を高い石壁がぐるりと囲ってる。

 お堀や跳ね橋があればもっと興奮してたろうがそういうのは無かった。

「うーん、どうやって入ったもんか……」

 俺は知ってる。映画とかで見たことあるんだ。

 門番がいるってことは確実に素性や持ち物なんかを調べられる。

 安全か危険かを取り調べて見極めて、大丈夫そうなら町の中へ通す。

 なんとも原始的なセキュリティチェックだ。

 映画とか漫画だと通行証やギルドカードなんて身分を証明するアイテムがあったりするが生憎とそんな便利アイテムこっちは持ち合わせてない。

「金も掛かるだろうしなー」

 入場税みたいな税金もあるんだとここに来て思い出した。

 この世界での物価の相場も通貨の単位も俺は知らないってのに。

 …………これは控えめに言って詰みなのではなかろうか?

 町に到着した感動と興奮で失念していた諸々の問題が露見してく。

 これは恥を忍んで爺さんを追いかけ今一度助けを乞うしか無い。

 と、情けない結論に達しかけた俺だったが救いの手はすぐそばから差しのべられた。

「それでは界人、直に日も暮れますし町の中に入りましょうか」

 桜花はそう言うと俺を連れたって門番に話し掛けた。

「すまない、少しよろしいか」

「なんだい嬢ちゃん。珍しい格好して旅芸人か何かかい?」

 対応した門番のおっさんは訝しんだ様子で桜花の服装を観察してた。

「連れの兄ちゃんも随分とまぁ奇抜な格好だな」

 もう一人の門番のおっさんに俺も観察された。

 そりゃあ怪しむよね。

 片や、現代のメンズファッション。

 片や、時代劇に出てくるような和装。

 どっちも西洋風ファンタジーって感じなこの世界じゃ異質だ。

 ここは爺さんも納得させた必殺の「俺、召喚士なんでー」で乗り切ろうとしたが先に口を開いたのは桜花だった。

「旅芸人とは失礼な、私はこれでもれっきとした剣士です。ここより遥か遠い地より流れてきた旅の身ゆえあなた方からすれば見慣れぬ装いなだけなのです」

 腰に差した大小二本を強調し桜花は少し鼻息を荒くした。

「そりゃ悪かった。ここいらじゃ見ない格好だったし腰のそれは飾りじゃなかったのかスマンスマン」

 おざなりな謝罪だったが門番のおっさんは謝って、すぐ自分の職務に取り掛かった。

「それでこの町には何の用だい? 一夜の宿を求めてか、それとも路銀集めに働こうってのかい?」

 テレビで見た入管職員みたいだった。

 麻薬や銃の密輸、犯罪者の侵入を防ぐ入国管理のエキスパートと門番のおっさんがダブって見える。

 平和を脅かす危険な因子を未然に防ぐって意味合いでは門番と入管職員はなんか似てる。

 それを脳内で連想、連結させた結果か?

 おっさんの物言いは柔らかかったが人となりをこの会話で見極めてやるぞ。ってのがビンビン伝わってくる。

「両方です」

 桜花は顎をしゃくって背後に縛りあげた野盗達を示して見せた。

「あれは?」

「旅の途中に襲ってきた悪漢共です。頭目は逃しましたが他は捕らえましたので引き渡そうと連れてきました」

 桜花と話してるおっさんが同僚の門番を縛られた野盗の確認に行かせた。

「全員、息はあります。あとはご自由にどうぞ。根城を吐かせ残党がいれば一網打尽にするなりお好きなように。ですので……」

 桜花が門番のおっさんに耳打ちしだした。

 何を話してるかは全然聞こえない。

 ただ二人して互いに耳打ちしだしたから秘密のお話ってかんじだ。

 こっちは成り行きを見守るしかない。

 しばらくして話しが一段落したのかおっさんが門の前にある詰所っぽいとこに行った。

 かと思うとすぐに戻ってきた。

 片手で掴めるくらいの革袋を持ってだ。

 その革袋を桜花に手渡しておっさんは同僚を手伝いに野盗達の方に行ってしまう。

 一連の流れがよく解らず頭のなかは疑問符だらけ。

 おっさんは上機嫌になってるし意味がわからん。

「では、界人。行きましょう」

「へ?」

 その一言を発すると桜花は門の先――町中へ足を進めた。

 門番のおっさんはといえば桜花を止めもしない。

「どうしました? 早く行きましょう」

 立ち止まる俺を不思議そうに見てから桜花は堂々と門の先に進んだ。

「あー、もうどうなってんだよー!」

 状況が飲み込めなかったが俺は桜花に続き門をくぐることにした。

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