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「――ギルドマスター、敵襲です!!」
「なにぃ!?」
界人とティアが北に飛び去ったのを見計らったタイミングで冒険者ギルドに敵襲の報せが来る。
北門から続いている街道上での戦闘だ。
エタウィからの侵攻はいつもの事ではあるが、二つの地で同時に戦端が開かれたことになる。
こんなことは今までになくアイゼンは驚かされた。
しかし、報告はそれだけに留まらない。
「ギルドマスター、救援の狼煙が上がりました!」
「それならもう聞いてる。そのために坊主を」
「違います! 『帰らずの森』に向かわせた伐採部隊からの救援です!!」
「……三方面からの同時侵攻、だと?」
少数戦力で嫌がらせのように小突くのがそれまでの侵攻方法である。これはイガヤイム側に大した痛痒を与えてはいなかった。
それがここに来て多方面同時侵攻作戦を仕掛けてきた。
敵方の指揮を無能と侮っていたイガヤイム側にとっては寝耳に水の出来事であり、対処が後手に回ってしまう。
いつからか侵攻は一日一ヶ所のみと信じこんでしまっていたのだ。
もちろんこれはエタウィ側の策略などではない。
ただ偶然にもこの日この時だけに限り行われた大胆な侵攻作戦なのであった。
「非番の者も叩き起こして事に当たれ! 今までの楽な敵と侮るな。何をして来るかわからんぞ!」
アイゼンの大声がギルド内に響き渡る。下された命令にギルド内、ギルド外の人間が慌ただしく動き街全体に緊張感が伝播していく。
こうして重苦しい空気がイガヤイムを満たしていった。