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けぶる視界の先から現れたソレはいつも見かけるのとは少し違っていた。
艶の無い金属の人形にスライムみたいな粘っこい何かが纏わりついてるのが俺の知る怪機素体の見た目だ。
バトミリのカードだと、そこから日本の妖怪や海外の怪物をモチーフにした小怪機、大怪機と姿を変えていくが目の前にいるの人形の姿は俺の知識にも無い。
「なんだよアレ……」
怪機素体の体表を這うスライムのようなナニカは青く色づき、構成する金属自体も青みがかっていた。
そして、普段見ている個体との最大の差は両腕だ。
青みがかった怪機素体の両手には武器が取り付けられていた。
右手には短剣、左手には長剣と、この世界で造られたと思しきファンタジー色の強い剣が両腕に溶接されたかのように無理矢理装備されている。
魔獣の素材から造られた防具を素手のまま引き裂く怪機素体に、武器を取り付けたらそれは強いに決まっている。
安直な発想だが単純ゆえの強さを感じさせた。
「ティアッ!」
傍らに控えていたティアに合図を送る。
こういうのは先手必勝だ。
相手が何かしてくる前に物理的に叩き潰す。
ティアは前肢を片方使って怪機素体を直上から押し潰した。
少なくとも体重数百キロ超えはしてるティアの一撃。
この一撃で数々の怪機素体を戦場で屠ってきた。
今回もそれに倣い決着は秒で着いたと思ったが……それは甘い見通しだった。
大地に叩きつけた前肢をティアが跳ね上げる。
そして、情けない鳴き声を漏らしながら前肢をプルプルと振りだした。
何があったのかティアに近づき前肢を確認する。
「霜焼け?」
触れると前肢の皮膚が冷たく固くなっていた。
一瞬しか触れてないのにこの始末。長い時間触れてれば酷い凍傷になるのではないだろうか?
ティアは器用にも冷えきった前肢を口から吐く微量の火炎で温めだし霜焼けを治そうと努力しだす。
霜焼けと侮り放っておけば手が腐ることもある。
本能的にティアは対処法を実行したみたいだ。頭が良いドラゴンだな。
ティアがそうして前肢を温めてると押し潰した怪機素体が這い上がった。
「……違うのは見た目だけじゃ無いってか」
一瞬でも触れたなら低温火傷を負わせ、普通の怪機素体なら圧壊してる攻撃でも無傷と来る。
「こいつは強敵だな」