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「――強化といっても、やり方は色々あるんだよね」
穏やかな声音が響く。
「長所を伸ばすか、短所を補うか、簡単なところだとその二つになってくる」
力自慢ならば更に力を増してやる。
力は強くとも鈍重ならば俊敏にしてやる。
速く強くを体現出来たなら理想的だ。
「でも、そう上手くはいかないのが現実ってやつさ。あちらを立てればこちらが立たず、両立させるのはすごーく難しい」
男に求められた怪機素体の強化という課題。
誰もが貧乏くじを引いたものだと、哀れんでいたが男は短い期間で成果を出した。
「その点、アレは割と楽だったな。何せ付け足すだけで良かったんだから」
先刻から男の独り言を聞いている被験者は気が気では無かった。
――いったい、何の話をしてるんだ?
奴隷商人に連れられ売買された彼にとって耳にする話の全てが未知なのだ。
ひんやりとした実験台に拘束され喋ることも物理的に禁じられている。
そんな状態で耳にする柔らかく温和な男の声は逆に恐怖心を高まらせた。
「……と、申し訳ない。君にこんな事を言っても仕方ないか。ついさっきまで僕の思い通りに事が運んでいったから、上機嫌になってたみたいだ」
朗らかな笑みを浮かべ謝罪を述べる男に被験者はまったく安心しない。
直感で分かってしまったのだ。
目の前にいる男が人を人とも思わない奴隷商人以上に酷薄な人間であることを。
「上機嫌ついでだ。君には新たな方法を試すことにするよ。継ぎ接ぎは失敗したから……今度は混ぜてみようかな」
その言葉が意味する果ては何なのか、一欠片の想像も被験者の彼には出来なかったが涙をこぼして失禁した。
「さて、それじゃ始めようか。今、頑張ってくれてる僕の作品達ぐらいの出来には君もなってほしいかな」