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「おぉ、上出来じゃねえか」
イガヤイム北門、荷馬車の行列が次々に街の中へと流れ込んでいった。
二日前に送り出した伐採部隊からの第一成果がその荷台には載せられている。
荷台に載せられる程度に切り分けられた大きな木材の山。
樹皮は剥がれておらず早期運搬を優先した状態であったが少しの手間さえ掛ければいつでも市場に流せる。
アイゼンは目に見える成果に満足げに頷き搬入の様子を眺めていた。
恐れていた死亡者の報告もなく、魔獣との遭遇はあったらしいが重傷者も出てはいない。
「新装備はここでも大活躍、か」
複雑な気分を胸中に抱くが安全こそが第一。
気持ちを切り替え、このまま何事も起きずに伐採が終わってくれと普段祈らない神に祈るアイゼン。
だが、彼の願いは即座に打ち破れる。
「ギルドマスター!」
北門に自分のところのギルド職員が駆け込んできたのでアイゼンは一瞬だけ天を仰ぎ舌打ちする。
「どうした何があった?」
荒れる内心を部下に悟られぬよう応対し何事かと詳細を聞く。
「狼煙があがりました!」
「……場所は?」
「境界線、山岳地帯になります」
「奴等め性懲りもなくまた同じ場所を攻めてきたか」
前回は知らず警戒を怠っていた事もあり失態を演じてしまったが、警戒網を厚くし狼煙によって迅速な情報伝達も今回はやれている。
そして、アイゼンはもうひとつ手を用意しているのであった。
「特別遊撃隊を出すぞ。坊主のとこに使いを出しとけ」
こんな時の為に準備していた特別遊撃隊である。
思ったよりも早いお披露目となり鼻が高くなるアイゼン。
意気揚々とした様子でアイゼンは冒険者ギルドに帰っていった。
「……何事もなきゃいいけどねぇ」
一連の流れをマクロブは見ていた。
商人ギルドの代表としてマクロブもこの場に同席していたのだ。
「なんだか嫌な予感がするよ」
確かにアイゼンの行動は不測の事態に備え素早く先んじて対策していると思うマクロブ。
だというのに感じる不穏な気配。
その正体はわからず仕舞いで、マクロブは部下に命令を下す。
仕事に専念すれば気が紛れる。
これもまた歳を重ねて得た技術の一つなのであった。