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界人が考案した無意味な修業をリイナが受け始めて一週間。
そこには思わぬ結果が待ち受けていた。
「なん……だと?」
使い古された驚愕の言葉を発した界人。その理由は誰あろうリイナにある。
腹筋に始まった筋力トレーニングをリイナは初日二桁に達した段階で限界を迎えていた。
翌日には初めて味わう筋肉痛のツラさから数回で諦めかけたが、リイナを早く追い出したい界人が叱咤し前日と同数までこなさせた。
厳しい師匠と化した界人はその後も手を緩めることなくリイナを指導して、七日が経過した今日それは起こった。
筋力トレーニングの後には魔力も絞り尽くしボロ雑巾に仕立て上げ帰すのが界人流の修業法だ。
魔力を消費させる方法はリイナが適当に描いた召喚獣を限界まで持続維持させ続けるというシンプルなもの。
平均三十分前後がリイナの持続限界時間でその間界人は暇をもて余すことになる。
ティアを構ったり、茶を飲んだりしつつリイナをながら見するのだが界人は違和感に気づいた。
「もう三十分は確実に経過してないか?」
普段ならば地面に崩れてるはずのリイナがまだ立っていた。
簡単な図形の組み合わせで構成される召喚獣も健在でリイナの魔力は尽きていない。
これにはリイナ本人も驚き興奮していた。
「師匠、見てますか! アタシの魔力まだ尽きてませんよ!? なんでなんで!!」
理由は一つしかなかった。
「魔力が……本当に増えてるのか?」
誰も試してこなかったロジックも糞もない泥臭い修業方法は偶然にも奇跡を生んだ。
肉体と精神を文字通り限界まで酷使する日々の鍛錬は筋肉の超回復のみならず副次効果として微量ながらも魔力総量の底上げにも繋がっていたのである。
しかし、それはほんの僅かな増加に過ぎない。
子供のようにはしゃいでいたリイナだったが、すぐに電池が切れたオモチャのように地面に倒れこんだ。
「おい、大丈夫か!」
自分が課した修業ながら界人は心配してリイナに近づき抱き起こした。
肉体的、精神的疲労の限界で弱々しい有り様のリイナだったがその顔は満足げな笑みを浮かべていた。
「へへへ、師匠~アタシの魔力本当に増えました。ありがとうございます。師匠のこと信じて良かったです」
「……お、おう」
純粋な感謝の言葉に界人の良心は傷つけられた。
「ツラくて辞めようか悩んでましたけど、アタシもう師匠のこと疑いません。これからもビシバシ指導お願いします」