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 現れたのはお手本のようなゴロツキ共だった。

 六人いる男達は全員が小汚ない格好で剣に弓矢に手斧と武器を手にしてニヤついてた。

 街道の真ん中に立って荷馬車の行く手を塞ぎ脅してくる。

「そいつは警告だ。痛い目にゃあいたくないだろう? 素直に金目のもんと持ってる武器を出しな。そうすりゃ命だけは助けてやるぜ」

 馬の足元には一本の矢が突き刺さってた。

 これに驚いて馬は急停止したわけだ。

 連中は少し離れたとこからこちらの様子を窺っていた。

 弓矢を装備してる奴が弓を引き絞って構えてるから下手に抵抗すれば殺すってことだろうな。

「何が助けてやるだ。金を渡しても最後には殺すんだろうに……」

 御者台に座る爺さんは額に汗を垂らしながら緊張した面持ちで独り言をこぼす。

 俺もその意見に同感だ。

 あの手の小悪党が約束を守るなんて到底思えない。

 素直に従って金と武器を手放した瞬間に襲いかかって来る姿がありありと想像出来る。

 となれば、俺がやることは決まってる。

 バトミリのカードを使ってモンスターの召喚だ。

 爺さんがどんな対処法を考えてるかは相談しなきゃ分からなかったがモンスター召喚以外にこの状況を打破出来る気がしない。

「問題は……」

 俺の手元にあるのが雑魚のバニラモンスターカードだけなことだ。

 バトミリのモンスターカードには様々な効果を発動可能な効果テキストを持つ効果モンスターと、なんの効果もなくカードイラストに描かれるモンスターに関連した文章(フレーバー)のみが記載されたバニラモンスターの二種類が存在してる。

 シンジが昨日召喚してたのはいずれも効果モンスター。

月影に踊る暗殺者ムーンシャドー・アサシン】は相手モンスターを一体だが破壊する効果を持ってたし、【夜を駆る悪夢の車輪(ミッドナイトホイール)】は相手モンスター全てに攻撃できるという効果を持っていた。

 バニラモンスターはそういった効果の恩恵を持たないカードなんだ。

 多勢に無勢。敵がたくさんいる今だからこそ効果モンスターの力を借りたかった。

「無い物ねだりしてもしょうがないか」

 悔しいがどうにもならないんだ。

 俺は諦めて現状の打破に意識を集中させることにした。

「爺さん、伏せててくれっ!」

 荷台から大声で爺さんに指示を出す。

「お、おうさっ」

 俺の指示に素早く従って爺さんは御者台にかがみ込んだ。

「――俺は【流浪の剣士 桜花(おうか)】を召喚する!」

 爺さんが伏せたのを確認してから俺は即座に荷台でモンスターの召喚を試みた。

 召喚は問題なく成功した。

 カードが緑色の燐光を宿すや光は人の形になって、編笠(あみがさ)を目深に被る剣士の姿に変わっていった。

「てめぇ! どこから出てきやがった!」

 突然荷台に現れた日本風の剣士――(サムライ)に野盗達は驚いた。

 大小二本の刀を腰に差す旅装の侍はカードイラストの通り。

 頼もしいが、時代劇のようにひとりでばったばったと野盗達を斬り倒してくれるなんて期待はしてない。

 この世界でのバトミリの召喚、そのルールは昨日一通り確認してるからな。

 所詮はバトミリのルール通りにしか動かない駒だ。

 せめて的確に指示を出して事態を好転させるしかない。

「【流浪の剣士 桜花】! あの弓矢を構えてる野盗を攻撃しろ!」

 ひとまずは遠距離から狙われるのが一番怖いし厄介だ。

 なので、俺は弓矢を持つ野盗を潰すことにする。

 他の五人は近距離武器で武装してる。奴らは後回しで構わないと思ったからだ。

「――その指示は承服しかねます」

 涼やかかつ凛とした声が俺の指示を拒否した。

 その声は荷台の上、俺のすぐ横から聞こえてきた。

「状況を見るに悪漢共に襲われている様子、それならばもっと良い手がありますゆえ」

 最初なにが起きてるか分からなかったが二言目でようやく理解が追いつく。

「召喚したモンスターが…………喋った?」

 瞬間、荷台が大きく揺れた。

 隣に立っていた【流浪の剣士 桜花】が荷台から跳んでいた。

「オレ達とやろうってのかよぉ! 舐めんじゃ……ぶげぇえ!」

 編笠が野盗の一人の顔面に直撃していた。

 荷台から跳んだ瞬間に【流浪の剣士 桜花】が投げていたんだろう。

 鼻血を垂らして野盗は倒れた。

「おい、大丈夫かっ」

「そいつは放っとけ、来るぞ!」

「矢だ! 矢を射掛けろ!」

 仲間が一瞬でやられたことで野盗達は明らかに狼狽していた。

「……遅い」

 野盗が矢を射ってくるよりも早く鋭い剣閃が野盗4人を沈黙させた。

 ――キン、と刀を鞘に納める音。

 続くのは野盗4人が倒れ伏す鈍い音。

 刀身を俺は見ることができなかった。

 それだけ素早い高速の斬撃だったということなんだろう。

「まだやりますか? あなたの仲間は皆いなくなりましたが」

 六人いた野盗も残るはリーダーっぽい雰囲気を出してた男一人。

 強面の髭面がどんな答えを出すかと息を飲んで見守る。

「み、見逃してくれぇ~っ!」

 情けない悲鳴を上げ野盗の頭目は手下を見捨てて逃げ出していった。

「助かった……のか?」

 爺さんが御者台に立ち上がり、街道を逃げてく野盗の親分を見て言った。

「やった。ははは、やったぞ! 助かったんだ!」

 そこでようやく九死に一生を得たと確信した爺さんは大はしゃぎだ。

 テンション高く大げさに喜んでた。

 俺も助かったことを一緒に喜びたかったがそれよりも優先したいことがあったので爺さんを素通りさせてもらう。

「あの……助かった。ありがとう」

 俺が礼を言ったのは、召喚したモンスター【流浪の剣士 桜花】だ。

「いえ、当然のことをしたまで。召喚士殿の身にお怪我も無いようで安心しました」

 やっぱりだ。俺の勘違いでもなんでもなく喋った。

 ちゃんと会話も成立してる。

 なんでなんだ?

 召喚されたモンスターは意思の無い駒同然なんじゃなかったのかよ。

 疑問は尽きないが……なによりも俺が驚いたのはだ。

「どうかなさいましたか、召喚士殿?」

 桜色の長い髪をポニーテールにした美少女剣士が可愛らしく小首を傾げてきた。

「【流浪の剣士 桜花】って、女の子だったのか!?」

 カードイラストだけでは判別つかなかった彼女の性別なのであった。

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