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「まずは召喚術について、自分が理解してる範囲で説明して貰おうか」
「はい、師匠!」
早朝、リイナは俺に師事するべく我が家にやってきた。
ひとまずは庭の一角を修業場にして指導しようと思う。
「召喚術とは己の魔力を用いて召喚媒体となる依代に属性霊を憑依させ使役する魔術のことです」
無駄に広い敷地が初めて役に立った瞬間だ。
「そうだな。知識としては基本中の基本だな、では属性霊とはなんだ」
「はい。属性霊とはその名の通り火、水、風、地、混沌、闇、光の七属性に別れる無形の霊体の総称。人間の発する魔力を好み、明確な意思はなく、実体も持たない脆弱な存在です」
「その通りだ。ちゃんと基礎は理解してるようで安心した」
――もちろん、俺はそんなこと知らなかったけどな。
修業を前にリイナに前提となる知識が充分か確認するフリをして、逆に学ばせてもらった。
リイナの説明を聞く限りだと、俺が知るゲームなんかでよくある別世界から悪魔や精霊みたいなのを召喚するって方式とはだいぶ違う。
召喚媒体とかいうモノに属性霊なるものを憑依させる……ちょっとまだ全容を掴めないな。
「では、召喚媒体となる依代と属性霊の関係についてもう少し詳しく説明できるか?」
「わかりました! 依代とは呼び出した属性霊が宿る仮初めの肉体です。依代の質によって召喚獣の強さが決定づけられると言っても過言じゃありません。例を出すなら、そこらの商店で買える普通の素材で依代を制作するよりも厳選された極上の素材で依代を制作した方が同じ術者であっても完成度に雲泥の差が生まれますね。それから…………」
リイナの説明はまだまだ続いてたがだいたい分かった。
この世界の召喚術では属性霊の入れ物となる依代が非常に重要みたいだ。
術者の魔力を餌に呼び出される属性霊に性能差はなく総じて弱い。
ならば、何故属性霊を呼び出すのかというと依代の乗り手とするためだ。
属性霊自体に基本意思は無いが、術者の魔力を糧とし依代という肉体を得ることで自我が芽生えるのだとか。
この段階である種の契約完了となり、呼び出された属性霊は術者に使役されることを良しとして召喚獣の完成となるみたいだ。
「そして、召喚獣は大喰らいです。依代に属性霊が宿ってる間は常に魔力を消費し続けます。だから、召喚士はその都度その都度召喚して退去させるのに……師匠の召喚術ときたら!」
目を輝かせてリイナが迫ってきた。
「召喚を常時し続けるなんて離れ業どうやってるんですか!? あの龍が食事してるのは見ましたけど、まさか食物摂取による魔力補填を? 不可能ではないでしょうがそれはどういった方法で効率化を実現なさったんですか!」
恒例となりつつある質問責め……苦手だわ。
そもそも答えられるだけの知識がないんだ。
師弟関係になったんで覚悟はしてたけどこれが続くのは勘弁願いたい。
その為にもリイナには俺の事を使えない奴だと思わせさっさと見限って貰おう。