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…………最近、ノエルの様子がおかしい。
「界人くん。リイナちゃんってそんなに悪い子には見えないんだよね。名声に惹かれて安易に弟子にしてくれって言ってる訳でもないし少しくらい前向きに考えてもいいんじゃないかな?」
ついこの前まで俺と一緒になって辟易としてなかったか。
それが手のひら返してリイナを推すって変だろ。
「……あ~、その、なんだぁ坊主。この間の弟子入り云々だが悪いもんでもないかもだぞ。他人に教えることで自分の成長にも繋がるかもしれんし、ノエルの嬢ちゃんから聞いたがそんなに悪い娘じゃなかったんだろ?」
冒険者ギルドに寄ったらギルドマスターにまで似たような事を言われた。
挙げ句の果てには、
「リイナちゃんね、住む場所が無いらしいの。いまは外街の教会で寝泊まりしてるらしくて……それでね、界人くんが許可してくれるんなら部屋も余ってるし……」
ノエルはこの家での同居まで提案してきたのだった。
「ノエルの奴、いつのまに懐柔されたんだよ」
考えられるのは守衛をしてくれてるダグフリーに差し入れしに行った時、リイナと接触したのかもな。
そこからなし崩し的に同情して協力者にって感じか。
ダグフリーを雇ってからリイナの付きまといが解消されたって油断してたけど思わぬ方向に話が転がってる。
これが全てリイナの策略だったとしたら恐ろしい。
強行策から搦め手への移り方が滑らかすぎる。
だとしたら、どこまで包囲網が伸びてるか予想は不可能で逃げきれる気がしない。
「…………でも、それは無いか」
リイナには悪いがそこまで頭が切れるようには見えなかった。
実際に頭が良ければ無謀で反感を買う執拗な弟子入り突撃なんてしないだろう。
最初から外堀を埋めて逃げ場をなくしてから弟子入りを確約させられてるはずだからな。
「だとするとノエルの暴走か」
それなら納得出来る。
多忙を極めるギルドマスターにもノエルなら接触可能だし助力を求められる。
「……マズいな」
そうなってしまうと後は時間の問題だ。
俺がいくら弟子入りを断ろうともノエルが家に招き入れたら元も子もない。
あの家は俺だけの家じゃなくノエルの家でもある。
居候としてリイナを迎え入れる権利がノエルにもあり俺はそれを断れる理由が少ない。
ティアや黒猫と我が家のエンゲル係数を高め続けてる俺がノエルにだけダメだとは口が裂けても言えないんだ。
「……う~ん……」
真綿で首を絞められるとはまさにこの事なのかも。
徐々にではあるが確実に逃げ道は塞がれ待っているのは望まぬ結果。
「やるしかないか」
非常に不本意だが残された手はこれしか無いように思う。
「肉を切らせてなんとやらだ」