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「え、それじゃあ二人とも孤児なの?」
遅めの昼食を摂るダグとリイナに付き合い世間話に華を咲かせていたノエルは期せずして二人の出自を知ることになる。
「うん」
「そうです」
隙あらば界人宅に侵入しようとするリイナもノエルの美味な料理の魅力には勝てずダグと取り合いを繰り広げていた。
飢えた二匹の獣の争いは出自を知ったノエルには悲惨さが加味されてしまい自然と瞳が潤んでしまう。
そんなことも知らずに話の流れのままダグとリイナは自分達の短い人生を語っていく。
「……傭兵団に入ってそれから…………嘘、家族が一夜のうちに失踪……」
二人にしてみれば過ぎ去った思い出話で感傷に浸るような代物ではない。
そんなこともあったなぁくらいの気持ちであっけらかんとした様子。
この世界を生きる者にとってありふれた不幸話で珍しくもないのだ。
こんな話をしたって同情しては貰えない。
しかし、ノエルは違う。
意地汚く指についた料理のカスを舐めとる二人をその場に残し家の中に入ってしまった。
数分後に戻ってくると果物が山と積まれた籠を手にしていた。
「料理はもう無いんだけどその感じじゃ食べたりないよね。デザートに果物なんてどうかな?」
申し出が断られる訳もなく籠に手が次々と伸びていく。
用意された果物の正体はティアのおやつであり庭のどこかから悲しげな鳴き声が聞こえノエルは心の内で謝罪した。
ノエルの性格上、不幸な人間を目の前にして何の行動も起こさないのは無理でありこうなった。
だが、これで満足するノエルではない。
高まってしまった庇護欲はあらぬ方向にむかっていく。
「待っててね。いまはご飯をあげるくらいしか出来ないけどわたしも協力するから」