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高位の冒険者との繋がりを得たい人間はごまんといる。
商人であれば自慢の品を売り込み使って貰えれば、高位冒険者様のお墨付きだと触れ込み売り上げを伸ばせるのだ。
界人にもそういった毒牙は当初伸びかけた。
なにせ自宅は冒険者ギルドに程近く隠してすらいなかったからだ。
だが、ティアの存在が抑止力になっていた。
恐ろしい見た目と火を吐くドラゴンというのは幼き日に聞いた絵物語そのままで潜在的な恐怖の象徴だった。
そんなティアが邸宅の庭で鎖にも繋がれず放し飼いにされている。
それを見てとった人間達の選択は全員が退散。
野心家ではあっても自殺志願者ではなかったのだ。
界人が一人でいる時でも脳裏には赤い龍の影がちらつき、話し掛ける肝の据わった人間はこれまで現れなかったのである。
「師匠~! どちらに向かわれるんですか?」
そう、これまではだ。
「師匠~! お荷物お持ちいたしましょう」
リイナという例外が現れた事で界人は高位冒険者の苦悩の一つを初めて味わうことになった。
弟子入りは断ったがそれで諦めるリイナではない。
買い出しのため街中に繰り出すとリイナに待ち伏せされた界人は絡み倒される羽目となった。
「師匠~! この店、なかなかの品揃えですよー」
何度やめろと言っても絡まれ続け師匠呼びされる界人。
一緒に買い出しに出たノエルは困った顔をし、荷物運びを手伝うリートは意地の悪い笑みを浮かべる。
「……リートめ、他人事だと思いやがって」
密かに人語を理解し状況を完全に把握してるリートに恨みを抱くが界人に出来る報復は特になかった。
界人にやれるのは精々早く買い物を終わらせて家に引きこもるくらいしかないのであった。
「――師匠~!」
「…………あぁノイローゼになりそうだ」