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「――と、まぁそんな感じでした」
対面に座ったアイゼンは界人から事のあらましを聞き終えると気にかかる点を問いただしていく。
「なにか変わった事、気になる事はなかったか?」
「……というと?」
「戦闘中に熱や冷気を感じたとかだ。自然的じゃあない不自然なもんをな。それか、なんでもいいから違和感だ」
「う~ん」
首を捻る界人に心当たりはなさそうで、やはり杞憂だったのかとアイゼンは脱力した。
これ以上の追及は時間の無駄だろうと判断し話題を変える。
「まぁ何も浮かばないのなら構わんさ。それよりそいつが新しい仲間か」
アイゼンは界人の肩に乗る黒猫を指差した。
一見して普通の黒猫と大差ないが細部をよく観察すると特異であることに気づかされる。
「……そうか、召喚したんだな」
「はい……」
界人はアイゼンに既に自らの事情を打ち明けている。
自身が異世界から転移してきたという点は除き、カードを使えば様々な魔法を行使し、異世界からモンスターを召喚出来る自身の能力については説明し終えていた。
この秘密を打ち明けているのはアイゼンのみで、一月と少し前にティアを連れてイガヤイムに帰ってきた件を納得させるには語るしかなかったのだ。
危険な龍種ではない。
完全に自身の制御下に置かれている。
これらが実証されたからこそ、ティアは界人の相棒としてイガヤイムに居場所を持てているのである。
そしてアイゼンは桜花、ノエルとの関係性についても承知済みだ。
界人が新たに仲間を召喚した事実を聞きようやく気持ちの整理がついたかと安堵した。
冒険者には仲間を失い孤独の道を選ぶ者もいるし、そのまま塞ぎこんで引退する者もいる。
多くの前例を目の当たりにしてきたアイゼンだからこそ、界人が新たな仲間を迎え入れた事を喜ばしく思うのだった。
「休みなのに今日は悪かったな。まだしばらくは休んでいてくれ」
恒例の面談はつつがなく終了し界人は執務室から退室した。
アイゼンは界人を見送り椅子に座り直すと眉間の皺を深くして考え込む。
「……あの猫」
先刻は界人の成長を喜んだアイゼン。
しかし、界人がいなくなってから新たに仲間入りした黒猫に嫌なものを感じていた。
「坊主が喚んだんなら大丈夫、か」
積み重ねてきた齢による勘は時折当たるし外れもする。
今回の面談での問いが良い例で界人は先の戦いに異常は感じなかったと答えている。
幼い双子の証言だけを鵜呑みにして問いを投げたつもりはなかったものの、手応えの無さにアイゼンは落ち込んだ。
「まだボケちゃいねえと思うんだがな」