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「――青の剣魚、行きなさい!」

 空中に描かれたのは三角形を連ねて構成された青く鋭利な見た目をした魚群であった。

 リイナの号令に従って青の魚群は怪機素体へと突撃していく。

 空中を華麗に泳いで怪機素体に取りつくや水飛沫と甲高い金属音が発生した。

「前と同じか……自信無くすなぁ」

 前回の遭遇と同様にリイナによる攻撃は怪機素体に通じなかった。

 山火事の危険を考慮し使用するクレヨンの色を変えた事はこの結果に何ら影響していない。

 純粋な力不足であった。

 今以上に火力を引き上げる事も不可能ではなかったがそれには時間を必要とした。

 しかし、それを実行するのは難しかった。

 怪機素体を魚群で足止め出来るのは僅かな間のみ。

 必要とする時間にはとても足りない。

 そうなると選択肢は撤退しかなかった。

「……でも、ここまで来てそれはないっ」

 撤退の選択肢はリイナには無かった。

 沢山の時間と金を費やしてここまで来たのである。

 自分を置いてった家族達はもう目と鼻の先にいる。

 その事実が彼女を頑なにしていた。

 リイナは青色のクレヨンを取り出して魚群を追加で描きにかかる。

 足止めに費やす個体を増やしその間に怪機素体を倒せるだけのモノを造り上げる算段だ。

 一筆ごとに魔力が抜けていき最後まで魔力が持つかは賭けだったが、リイナの博打は成立さえさせて貰えない。

 怪機素体が剣魚の群れを蹴散らし迫ってくる。

「……ッ、こりゃ間に合わないかも」

 自身のとっておきの完成より剣魚が尽きるのが先なのが目に見えて明らかだった。

 今さらの撤退なんて手遅れで不断なら祈りもしない神様に奇跡を祈るしかない。

「これからは冬以外も祈るから……頼むよ神様!」

 その祈りが天に届いたか、救いはもたらされた。

 怪機素体の足元に突如として虚ろな孔が開く。

 三次元的なものではなく二次元的に開いた底の見えない黒い孔。

 怪機素体は音も無くその内に呑まれ消失した。

「……間に合ったか」

 無音の消失という異常現象に目をパチクリさせるリイナの背後から青年の声があった。

 絵札を手にする界人の姿にリイナは安堵したり、感謝の言葉を口にしたり、逃げようとするでもなく観察に徹した。

「なに、あの絵札……」

 界人が手にする絵札には美麗な絵と細かな文字が刻まれていた。

 絵にはさっき怪機素体が吸い込まれたのに酷似した孔が描かれており、絵の方は獰猛そうな獣が吸い込まれていた。

 その絵はリイナが見てるそばから薄れて消えていった。

 記されていた見たことのない文字も薄れゆく絵と同様に消えていき、最後には絵と文字が刻まれていた枠だけを残して空欄の(カード)だけが残される。

 一連の現象から怪機素体を葬ったのは界人だとリイナは断定する。

巻物(スクロール)の一種? でもあんな魔術を封印しておけるってどんな代物? それこそ神代に造られた伝説級の……あり得ないでしょ……でも」

 考察をぶつぶつ口から漏らすリイナは完全に自分の世界に入ってしまってる。

「ちょっと、おーい、もしも~し!」

 界人が話しかけても思考の海に浸かっている始末だ。

 自らの知的好奇心、探求心を最優先にする姿勢は実に魔術士らしい在り方だったが界人からすればいい迷惑だ。

 リートからの嫌味と正論を受け流して窮地を救いに来たのにこれでは立つ瀬がない。

 現にリートからは冷たい視線を向けられリイナがいなければ小言を頂戴していたことだろう。

 現状の思考に埋没してるリイナからは何故こんなことをしたのかと事情聴取も出来ないとくる。

 界人がどうしたものかと悩んでいると麓の方から騒がしい気配がしてきた。

 複数の人間の雄叫び、固く鈍く重い音、風に乗り香る金臭い匂い。

 それら断片的な情報から導きだされる結論は決まっている。

 これまで第二位が抑えていたはずの土地深くに侵入してきた怪機素体。

 それがあの一体だけでは無かったとしたら。

 ……つまりはそういうことなのだった。

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