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「なんですぐに教えてくれなかったんだよ!」
リートに文句を言いつつ山へと入った。
聞いた感じ離れてから大して時間は経ってない。
どの方向に向かったかは知らないが探してみる。
「放っておけばいいだろう。出会って半日も経ってない娘だぞ」
「そんなわけにはいかないだろ」
俺の後をリートが着いてくる。
荷車と繋ぐ金具は外したから軽快な足取りだ。
「人間同士の繋がりというやつか……こっちにとっては実にいい迷惑だ」
軽快なのは足取りだけでなくお喋りもらしい。
背後から届く言葉を聞いてると俺を追従なんかせずに待ってくれてればいいのにって気分になってくる。
「迷惑といえばお前のこの無駄な旅もだ。切っ掛けだ、踏ん切りだ、と口にしてはいるがそれはなんだ。明確な言葉にして説明しろ。それが叶った時、この無益な日々から主は解放されるのか?」
その言葉に思わず振り返った。
「――融界大戦、だったか? 世界の命運を左右する大いなる戦。我が主はその戦いの為の助力として喚ばれた。そうだったな?」
リートが口にする単語を聞くと心臓が跳ねた。
「詳細は語れないと説明され、この世界にきてどれ程の月日が経ったか。やってる事といえば魔獣退治にガラクタ掃除、大いなる戦とやらはいつだ? 主はいつになったら元いた世界に帰れる?」
質問責めにされるが俺は答えられない。
返す答えそのものが無いんだ。
そんなこと聞かれたって俺の方が聞きたいくらいなんだよ。
無言で立ち尽くしてるとリートは嘆息してから口を開いた。
「理由があり語れないのか、そもそも語るつもりがないのかはこの際問わん。ただな、余計な手間を増やしてくれるな。主の気持ちがどうかは知らんが我は一刻も早くこの血生臭い世界から切り離してやりたいのだ」
リートが一歩距離を詰めてくる。
「つまらん些事にかまけてる暇があるなら融界大戦とやらの決着をさっさとつけてくれ。これ以上長居して主があの娘の二の舞になるのだけはゴメンなんだよ」
話のなかで引き合いに出されたのが誰か気づいた時、俺の手はひとりでにポケットへと伸びていた。
怒るという段階をすっ飛ばして身体が本能的に動こうとしてた。
意識的な動きじゃないからその行動を止められたのは偶然だ。
木立の向こうから響く衝撃音にビックリしたおかげで止まったに過ぎない。
「……悪い、その話はまた今度にしてくれ」
リートとの話を無理矢理に中断して音が聞こえた方向に急ぐ。
その間に頭を冷やすんだ。
自分が何をしようとしたのか思い出して背筋が寒くなる。
思考する間もなく凶行に及ぼうとした。
その事実がたまらなく恐ろしかった。
リートからすれば当然の不満を吐露したに過ぎない。
ノエルの語らない気持ちを代弁したとも言えるのかも。
その結果がアレ……これでハッキリした。
「俺とリートの相性は最悪だな」