128
アタシ一人だけが置き去りにされたあの日何が起こったのかをすぐに調べた。
家主の消えた家々を回ったけど手掛かりは無くて理由を知れたのは懇意にしてた胡散臭い商人を訪ねた時だった。
不法に廃村に住み着く魔術士連中と付き合う商人だけに信用は置けなかったけど、語られた理由は三流魔術士なら涎を垂らして飛びつくだろう誘いについて。
――さる高貴なお方が秘密裏に魔術士を集めている。
怪しい事この上ない誘いだが詳細を聞けば怪しさなんてどうでもよくなる魅力に溢れていた。
集められた魔術士には研究に必要な材料を無償で提供してくれるのだそうだ。
高価であったり希少であろうと望む品を用意してくれる。
貧乏魔術士にすれば夢のような誘い。
うちの馬鹿どもはその誘いに乗って消えたんだ、そう確信した。
アタシが聞きに行った時点で募集は締め切られどうすることも出来なかったけど、集められた魔術士が研究材料と共に送られた場所だけは聞けた。
――それがエタウィ。
「……山、舐めてたかも」
地理的な情報だけで簡単だと割り切るのは早計だった。
アタシが思ってた数倍山登りってキツイ。
そもそもアタシは魔術士で身体を動かすのは苦手なんだ。
イガヤイムで会った商人に警戒網の隙間にある取引場所を聞いてはいるけどそれは遥か先にある。
カイトに恵んで貰った食事で体力は回復したけど元々の体力がゴミだからけっこう厳しい。
「ていうか、あれで第三位冒険者とか心配になるなー」
アタシが抜け出したのに気づきもしなかったのには逆に驚いた。
あの警備の男と話し終わったら顔を伏せちゃってそのまんま。
好機かもって抜け出したら本当に成功しちゃったし。
荷車牽いてる鹿とはバッチリ視線が合った気もするけど、これだけ歩いても追ってこないなら気のせいだったんだろうな。
「……頑張れアタシ、あと少しだ」
王都からここまで色々あったけど目的地まであとちょっと。
皆に会ったら盛大に文句を言ってやろう。
皆へ伝える悪態はそれこそ山のようにあり開口一番に何を言おうか迷ってしまう。
暗い気持ちを原動力に歩を進めてると微かに物音がした。
風で木々の葉が揺らいだのとは違う異音は上の方から聞こえてきた。
意を決して見上げてみるとそこにはいつか見た異形の姿があった。