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この旅は案外早く終わりそうだ。
シヤン爺さんの村を出て昨日は夕方までリートの牽く荷車に揺られ移動してた。
ティアの背中に乗ってる時と同様に徒歩で移動するのが馬鹿らしくなるスピード感だ。
当初予定してた旅程は大幅に短縮され買い込んだ食糧が無駄になりそうな勢いである。
それほどリートは早くノエルの元に帰りたいんだろうな。
今朝も朝食を食べてすぐに移動したいと言い出してたし。
だけど、そのせいで俺は暇をもて余してた。
何もせずとも目的地にリートが向かってくれるので俺は荷台で揺られてるだけだ。
「絵札は弄らんのだな」
「え?」
街道を行く人間が他にいないからかリートが話しかけてきた。
周囲に人影があるときは話さないリートだが、誰もいないとこうして話しかけてくる。
喋れると知ってから何度目かになる会話。リートにしても他人とちゃんとした意思疎通が出来るのは楽しいのかもしれない。
「絵札だ。少し前までは朝も晩もパチパチ、パチパチと暇さえあれば並べ眺めていただろう」
「あぁ……」
確かに前まではよくやってた俺の日課だ。
バトミリのカードは俺がこの世界で生きてく生命線であり、限りある武器でもあった。
だから、毎朝毎晩欠かさず手持ちのカードを確認していた。
「必要無くなったんだ。このジャケットにはポケットが沢山付いてるから分けて収納出来てる」
これにはかなり助けられてる。
魔法カードでも破壊系、防御系と種類があるしそれをいちいちストレージではなくポケットから取り出し使えるので機能的なんだ。
今では持ってるカードの殆どをジャケットのポケットに収納して即座に使えるようにしてある。
「それに数も減ったからな」
確認しなくてもカードの数は把握出来るようになってた。
あの日、俺がヴィンツやジグラーに遅れを取ったのはカードを温存しようって気があったのも原因だと考えてる。
カードはお守りじゃない。
持ってるだけじゃ意味はなく使って初めて自分と大切な人を守れる。
それをあの山で学んだ。
俺はカードを収納してたストレージからカードを選ぶ時に自分でも気付かず逡巡してた。
カードゲームとしてのバトミリをプレイする時の癖が抜けず強力な効果を持つカードは温存し手元に残そうとしたんだ。
「必要な時に必要なカードを使う。そうしなきゃいけないんだ」
そう自分に言い聞かせる。
これを実践したから魔法カードの数は少し減ってしまった。
怪機素体から他の冒険者達を守るのにはティアの力だけじゃ足らなかったからな。
リートは俺の話を聞いて何か言おうとしていたが「前に人がいるな」と言ったきり黙ってしまった。
前方に視線を移すとリートが言うとおりに人影があった。
そこにはローブを身に纏う魔術士然とした少女の姿があった。