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 勇ましい雄叫びは情けない悲鳴に変わった。

 我先に人形に向かっていった男達は惨めったらしく逃げていく。

 何が傭兵、何が冒険者だ。

 勝てそうな相手にだけ威勢よくしてるなんて誰にでもできる。

 逃げる彼等を人形が追いかけてくる。

 重そうな鎧を身に纏う者が遅れ人形の餌食になった。

 それを見た他の連中はなるたけ身を軽くしようと装備を捨てて駆け出す。

 恐怖が伝播していき、恥も外聞もなく逃げ惑うのはひとえに生き残りたいからだろう。

 ダグもそうしてくれたらよかったのに彼は逃げようとしない。

 逆に鼻息荒く戦意に溢れてる。

「バカは勇気と無謀の違いもわからないみたいね」

 このままではいつ自殺しにいくかわかったもんじゃない。

 ……アタシも腹を括るしかないようだ。

「ダグ、あんたはそこでおとなしくしてて!」

 犬を躾るように命令してダグをその場に引き止める。

「わかったけど……なんだよソレ?」

 殊更強い口調で言ったからかダグは命令に従ってくれた。

 そして、アタシがローブから取り出した物を見て不思議そうな顔をする。

「アタシのとっておき。いいから見てなさい」

 取り出したのは赤のクレヨン。

 アタシはそれを使い空中に絵を描いていく。

「うぉぉ!?」

 何もないはずの空中に赤い軌跡が描かれていく様をダグは驚愕の眼差しで見つめてる。

 気持ちの良い反応だ。

 けど、驚くのはここから。

「これで完成ッ。出てきなさい、解放(リベロ)!」

 空中に描いたのは丸と線だけで形作った人間。

 所謂、子供が落書きする時に描くような簡略化された人の図だ。

 アタシはそれに四角や三角といった簡単な図形を付け足し剣、槍、盾として持たせている。

 それぞれの武器を手にした三体の棒人間はアタシの魔力がこもった言葉を号令とし召喚される。

 空中に浮いていた落書きが動き出し従僕(しもべ)としてアタシに使役されたのだ。

「どうなってんだよこれ。スゲェ!」

「言ってなかったね。アタシの専門は召喚魔術。アタシ召喚士なんだよねっ」

 鮮やかなアタシの召喚魔術に見惚れるダグ。

 もっと惜しみなく賞賛の言葉を送ってくれても構わないけど、まずはこの事態を解決してしまおう。

「あの人形を燃やし尽くしなさい赤の兵士!」

 アタシの命令に三体の棒人間は瞬時に従い人形へと向かっていく。

 手にした剣、槍、盾が赤い炎を灯して人形に衝突する。

 金属ならば高熱に弱いはず。

 三体による同時攻撃で間接部でも溶融させてやれば動きも鈍るだろう。

 そうしたら、あとは同じこと繰り返して金属塊にでもしてやる。

「……って……嘘、でしょ」

 効いていない。

 人形はなんら損傷を負っている様子がなかった。

 耐熱性が尋常ではないんだ。

「なんか効いてなさそうだな、やっぱりオレが!」

「バカ! ダグが行ったって何も変わらないってば。それより、アタシの赤の兵士が足止めしてる間に少しでも遠くに逃げなきゃ」

「やってみなくちゃわかんないだろ!」

 やらなくたって結果は分かりきってる。

 その棍棒に巻き付けてる銅の融点も知らないだろうに無茶苦茶だ。

 赤の兵士に近づいただけで棍棒ごと消し炭になるってのに。

「だからダメなんだって! あの人形を倒すにはアタシの赤の兵士以上の火力で焼き尽くすか、圧倒的なパワーで捩じ伏せるしかないの!」

 そんなもの今はどこにもない。

 だから、逃げるんだ。簡単な話じゃないか。

 頑なに逃げようとしないダグ。

 赤の兵士を振り払い迫る人形。

 ――そこに彼は現れた。

「防衛線から抜け出た個体、やっと見つけたぞ」

 人形の背後、イガヤイム側からやってきたのは細身の青年だった。

 黒髪でポケットの沢山ついた上着を着た青年は何の武装もしていなかった。

 剣も杖も持たず無防備に人形の前にその身を曝していた。

「なにしてんだ! 早く逃げろぉ!」

 自分は逃げようとしないくせにダグが青年に逃げろと叫んだ。

 だが、青年はダグの忠告を無視して人形に近づいていく。

「……いったいなんなの、男って馬鹿しかいないわけ?」

 人形は既に赤の兵士を沈黙させていた。

 人形は近づいてくる青年へと標的を変えて襲おうとした。

「危ない!」

 いまからじゃ新たに召喚しようにも間に合わない。

「――来い、ティア」

 青年が言うや、上空から何かの咆哮が轟いた。

 大気を震わせる特大の轟音の後に大地を揺らす衝撃が続く。

「……へ、なんでドラゴンが?」

 赤い龍が人形を押し潰していた。

 上空から聞こえた咆哮と大地を揺らした衝撃の犯人。

 それがドラゴンだなんて、予想外にも程がある。

 ドラゴンはアタシ達が苦戦してた人形を文字通りに蹴散らし青年を背中に乗せると飛び立ってしまった。

「……ワケわかんないんだけど」

 僅かな間に起きた不可解極まる出来事の連続にアタシの頭は煙を上げそうなほどに混乱している。

「本物だ……」

 アタシが頭を抱えてると横でダグは何故か目をキラキラさせていた。

 本当に意味がわかんない。

「ダグ、なんか知ってんの?」

「はぁ? なんだよリイナお前知らないのかよ」

 えぇ知りませんとも。まるで常識みたいな感じで言ってるけど知らないよ。

「あの人はなイガヤイムの冒険者ギルドに所属する冒険者で、赤の龍騎士の異名で有名な人なんだよ。その名前は――」

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