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「……森から、出られた」

 迷い込んだ『帰らずの森』の終わりは随分と呆気なかった。

 劇的な脱出劇があるでもなく木々の隙間を【夜を駆る悪夢の車輪】に乗りながら抜けると平野に出られた。

 だだっ広い野原には草しか生えてない。

 見慣れた高層建築なんてあるわけもなく、人がいそうな家屋も見当たらなかった。

 唯一、あったのは平野を貫くように続く一本の道のみ。

 そこだけ草が生えておらず地面が剥き出しになっている。

「ん~っ、一時はどうなることかと思ったけど森を抜けて街道に出られたわね」

 ミエルが【夜を駆る悪夢の車輪】から降りて気持ち良さそうに伸びをしながら言った。

 初めて乗る自動二輪車(オートバイ)。それも三人乗りなんて変則的な乗り方をしてたんだ。そりゃあ身体も凝るか。

 俺もミエルに倣って伸びをしてみた。

 バキバキと身体中から嫌な音が鳴る。

 半日近く乗りっぱなしだったから予想を越える凝りっぷりで驚く。

「それでミエル、森を抜けたはいいけどエタウィの町は? そろそろ日が暮れるぞ」

 太陽は程なくして地平線の向こうに沈もうとしている。

 遠くの空は茜色に染まってきていた。

「うーん、ここまでくればエタウィまで半日歩けば着くわね。そのなんちゃらホイールに跨がってれば三分の一の時間もいらないと思う」

 その言葉に「なら、早く向かおうぜ!」とシンジが息巻くもミエルが諫めた。 

「いいえ、止めておきましょう。日が暮れれば町は門を閉ざすわ。向かったところで野宿になるのは変わらないもの」

 それならばここで野宿し疲れを癒して、早朝に出発しても同じこと。

 ミエルはそうシンジを諭すのだが……なんだろうか距離感がだいぶ近い。

「ねぇ、シンジ。わたしの言ってることわかるわよね? あなたは賢いんだから」

 甘ったるい物言いでシンジの腕にしなだれかかってる。

「あぁ、ゴメン。俺が間違ってたよ。町が近いって聞いたら、いてもたってもいられなくなってさ……」

「ううん、いいのよ。何日も森のなかにいたんですもの町の明かりと喧騒が恋しくなるのもよく分かるわ。でも、夜の移動は危険も伴う。それを分かって欲しかっただけなの」

 この半日、必死こいて運転してた俺の後ろで何かが育まれていたようだ。

 俺は完全に蚊帳の外。

 イチャつく二人の会話劇を傍観するだけの存在になっていた。

「さ、寝る場所探すぞ~!」

 甘い空気には反吐しか出ない。

 いろんな意味で疲れたんで俺は二人を置いてきぼりに街道に向かって突き進んだ。

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