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今日も俺達はいつもの日課をこなすはずだった。
友人のシンジと俺は週末になると近場のリサイクルショップに足を運ぶ。
目当てはトレーディングカードゲームのコーナー。全世界にプレイヤーを有し世界大会まで開催される人気カードゲームである【Battle with a million worlds】通称をバトミリ。
このバトミリに使うカードを探すため日夜色々な店を巡ってる。
人気カードゲームだけありその歴史は古くまもなく四半世紀にもなり、累計カード数は軽く一万種類を超えて世界一売れてるトレーディングカードゲームの座にも輝いてたりする。
俺とシンジはそのプレイヤーなのだ。
各々、自分の嗜好と戦略にあったカードでデッキを組んでは決闘をする仲。
周りからは「高校生にもなってカードゲームとか……」と白い目で見られがちだが、そんなのを気にしてるようじゃバトミリは楽しめない。
今日も今日とて小学生に混じって掘り出し物はないかと格安ストレージを漁ろうと思っていた。
その日は郊外にある寂れた個人経営のリサイクルショップに行ってみた。
専門のカードショップよりこういった店のほうが価値を知らずにレアカードを雑に扱ってたりするんだ。
シンジと二人さっそく、長方形の小さなプラスチックケースに詰め込まれたバトミリのカードを発見し喜んだ。
入口近くのレジにいる店主はヨボヨボの老人で埃っぽい匂いのする薄暗い店内と相まり期待が高まる。
さて、とカードに触れた瞬間。
――世界が歪んだ。
ぐんにゃりと視界が歪みだし、酷い耳鳴りにも襲われ、意識が遠退いてった。
カードを持ったままフラフラとその場で回ってしまう。
薄暗い店内に鎮座する雑多な中古品の数々が目に映っては通りすぎる。
人間大の大きな仏像や、模造品の刀剣類、陶器に、絵画に、電化製品。
まとまりのない混沌とした品揃えを見てると気持ち悪さが増してたまらず目を瞑る。
そして、俺は転倒したのだった。
リサイクルショップの店内はタイル張りの床だったはず。
それなりに痛みを感じるかと思ったが思いのほか痛くはない。
それどころか、
「…………土の、匂い?」
床からは湿った空気と共に濃密な土の香りが漂ってきていた。
この異常な事態に俺は目を開けて立ち上がる。
いつの間にか視界の歪みも耳鳴りも気持ち悪さも消えていた。
「なんだよ、コレ」
隣から聞こえてきたシンジの震える声。
シンジも俺と同様の体験をしたのだろう。地面に倒れ身体は土で汚れていた。
感想を先越されたせいで俺はなにも言わず周囲に視線を振る。
俺達がいたのはリサイクルショップのはずだった。
だが、いま俺達は森のなかにいる。
首を直角に見上げなければならないほどに巨大な樹木が林立する鬱蒼とした森のなかに。
「いったい、どうなってんだよぉぉお!」
シンジの声が虚しく森に響くのだった。