第67話 対ゴーレム戦
急いでヴィムは魔獣と人間が戦っている現場へと向う。
「ここで止めてくれ」
戦いの場の少し手前でヴィムは馬車を停車させた。
このまま馬車で突っ込むのは危険と判断した。
「ハナはここに残って馬車とロルフさんの護衛を。ミサは俺と一緒に来てくれ」
ヴィムは二人に指示を出した。
そのまま、馬車から飛び降りた。
ミサもヴィムに続くようにして馬車から飛び降りた。
「さてと、やりますか」
ヴィムは索敵魔法に引っかかった方へと走っていく。
「これは、酷いですね」
ミサが思わずつぶやいた。
「ああ、そうだな」
そこに広がっていたのは、騎士と思われる複数の人間とゴーレムが戦闘している姿だった。
ゴーレムは動きこそ遅いものの、圧倒的な防御力と攻撃力を誇る。
騎士服を身に纏った人は半数以上が戦闘不能な状況であった。
「俺が魔法で援護する。できるだけゴーレムの注意をそらしてくれ」
「了解」
ミサはそう言うと、腰に刺していた剣を抜いてゴーレムに一直線に向かって行った。
「こっちだ!」
ミサが上手いことゴーレムの注意を自分の方に向けてくれている。
その隙にヴィムは魔法を展開する準備を整える。
「吹っ飛べ」
ヴィムがそう呟くと風の刃がゴーレムに向かって飛んで行った。
そして、ゴーレムの右手と左足が切断された。
ゴーレムはバランスを崩してその場に倒れ込んだ。
「爆ぜろ」
ヴィムが言うと、ゴーレムを中心に爆発を起こした。
その爆発が収まった後に残ったのは粉々に砕け散ったゴーレムの残骸だった。
「流石ですね」
「いや、ミサが上手く注意をそらしてくれたおかげだよ。助かった」
そして、ヴィムは負傷した騎士の方に視線を落とした。
『エリアヒール』
ヴィムはエリアヒールを展開して負傷している騎士を全員治療した。
「責任者の方はどなたですか?」
「俺だ」
騎士服の中でも豪華な作りになっている。
おそらく、団長クラスだろう。
レオリアの騎士団は第三騎士団しか知らない。
ヴィムが見たこと無いということは第一か第二騎士団だろう。
「俺は第一騎士団で団長をしているオリバという者だ。助かった。礼を言う」
「いえ、僕らもここを通りたかったので、邪魔なものは始末しなければいけません」
そこまで言って、ヴィムは懐からSランクを示すギルドカードと王家の家紋が描かれた金色のカードを取り出した。
「私はヴィム・アーベルと申します。急ぎますので、後はお任せしても構いませんか?」
「Sランク冒険者様でしたか。通りで俺たちではても足も出なかったゴーレムを一瞬で……」
「剣とゴーレムの相性が悪かったと言うのも大きいと思いますよ」
ゴーレムの防御力は圧倒的なので剣との相性が悪い。
魔法で攻撃を続けていくのがゴーレムの一般的な倒し方である。
「そうだな。ああ、後のことはこっちに任せてくれ。部下の回復までしてくれて本当に助かった」
「いいですよ。ただ、傷を塞いだに過ぎません。出て行った血は戻ってませんので無理はしないように」
ヒールには失った血までを回復する力はなかった。
「分かった。今日はこれで引き上げるとしよう」
「そうした方がいいでしょうね。にしても何でこんな所にゴーレムが出たんですかね?」
「正直、それが俺たちにもわからないんだ」
ゴーレムは自然発生することもあるが、多くの場合は人工的に作られるのである。
人工的に作られたゴーレムは人を襲うことはしない。
「では、何か分かったら報告書を僕の方にも回してください」
「分かった」
「では、僕たちはこれで失礼します」
そう言うと、ヴィムはミサを連れて馬車を停めている所まで戻った。
「ヴィム様、大丈夫でしたか?」
戻るとハナが真っ先に声をかけて来た。
「ああ。こっちは大丈夫だ。ゴーレムが居たから倒してきた。ハナの方は?」
「こっちは大丈夫です。特に異常はありませんでした。にしても、ゴーレムを倒しちゃったんですね」
ハナは驚くを通り越して呆れていた。
「ミサさん気をつけてくださいね。ヴィム様の近くに居て油断すると、常識という概念をねじ曲げられてしまいますから」
「き、肝に銘じておきます」
おいおい、そんな事は肝に銘じなくていいんだよ。
ハナも最近は言うようになってきたな。
女の子というのは怖いと時々感じてしまう。
おそらくだが、この中で立場ヴィムが1番上のはずだが、1番下な気もする。
「はいはい、先を急ぐよ」
ヴィムは女の子二人に手を貸して馬車に乗せる。
その後に続くようにしてヴィムも馬車に乗り込んだ。
「では、出発致します」
ロルフの声で馬車はゆっくりと進み始めた。
そこからスピードが上がって行き、規則正しい地面を踏む蹄鉄の音が聞こえてくる。
「じゃあ、俺はちょっと昼寝でもするから。何かあったら起こしてくれ」
ここから先は魔獣はほとんど出ないエリアのはずだ。
「分かりました」
ハナの返事を聞いてヴィムはブーツを脱いで、横に長い馬車の座席に横になった。
馬車の絶妙な揺れと満腹感ですぐに睡魔がやってきた。
ヴィムはやがて意識を暗闇に落としたのであった。
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