第40話 ヴィム・アーベル
ヴィムが自室でくつろいでいる時、リビングでは別の会話が繰り広げられていた。
「あの、少しいいですか」
「どうされましたか?」
ハナがジェームズに尋ねた。
「ヴィムさんってジェームズさんから見たらどんな方ですか? こんな私にも優しくしてくれるなんて」
ハナは奴隷という身分である。
普通なら虐げられてもおかしくはない存在なのである。
それなのにも関わらず、ヴィムはハナのことを気にかけ、優しく接してくれる。
「そうでございますね。素敵な方だと思いますよ。人のために怒ることができてもそれを行動に移せる人は多くはありません」
「確かに、ヴィム様は感情的になられると口調が変わったりするかもしれません」
ヴィムはつい、感情的になると乱暴な言葉使いをしてしまう。
これは、良くないことなので意識的に直そうとはしているのだが、そうもいかないこともある。
この世には理不尽が多い。
時には苦虫を噛み潰すような表情を浮かべなくてはならない時もあるのである。
「はい、あの方なら本気でこの国をも変えてしまうのかもしれません。私はそう思っています」
ジェームズの言葉に嘘は無かった。
当初、このお屋敷に仕えることを断ろうとも思っていた。
しかし、ヴィムの為人や今までの境遇を聞いてこの人に仕えてみたいと思った。
「この国を、ですか」
「左様でございます。私は、お役を息子に譲った直後にこのお屋敷へのお誘いが来ました。旦那様を間近で見てきて執事人生の最後をこの方で過ごしたいと本気で思うようになりました」
ヴィムなら国だけではなく、世界ですら影響を与えて行く存在になるかもしれない。
本気でそう思っている。
「一見してただの優しい方に見えますが、あの背中には大きな責任がのし掛かっていると思うのですよ。それでも、弱い所は我々にも見せようとしない。強い方だと思いますよ。本当の意味で」
Sランクともなれば国政にまで口を出せるほどの影響力を持つ。
まあ、ヴィムの場合は国政には興味はないが、間違っていることは間違っていると言わなければ気が済まない性分なのも確かである。
その性格上、ヴィムも立派な標的なのである。
ヴィムが居なくなったら得をする人間はこの国にだけでも数十人はいるだろう。
Sランク冒険者というのはそれだけの責任を有した存在なのである。
「やっぱり、すごいです」
ハナにはその言葉しか出て来なかった。
「旦那様の近くに居たらまだまだ面白い景色が見れそうです。私の老後の楽しみができました」
ジェームズは笑いながら言った。
「ジェームズさんはここでの仕事が最後なんですか?」
「おそらくですが、そうなるかと存じます」
年齢的にもジェームズは後10年ほどで家令を引退することになるだろう。
そうなると、執事人生をヴィムの屋敷で終えることになる。
ジェームズのような優秀な執事が執事人生の最後を捧げたいという人間がヴィム・アーベルという男である。
レオリア国王から直々にSランクの称号を得た最強の魔術師はこの世界の全ての理不尽を叩き潰すべく、奔走するのであった。
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