第25話 ハナの武器
ヴィムがソファーに座って、ボーッとしていると、ハナが降りてきた。
「おう。体調は大丈夫か?」
「はい、ヴィム様に治して頂いたので、前よりも調子いいくらいです」
「それは何より。とりあえず座ってくれ」
ヴィムは対面のソファーに座るように促した。
「分かりました」
そう言って、ハナはソファーへ腰を下ろした。
「まず、これからハナには俺の仕事を手伝ってもらいたい。もちろん、それに見合った報酬も渡す。戦闘はできるか?」
「え、お金も貰えるんですか?」
ハナはキョトンとした表情を浮かべた。
「働いてもらうんだから無論だろ。ちゃんと報酬は分配するつもりだ」
「ありがとうございます。片手剣になら自信があります!」
「助かるよ」
ヴィムはやや魔法に頼った戦闘をする手前、前衛で動いてくれる仲間がいてくれるのは助かる。
「じゃあ、早速だが、剣を見に行くか。あと、服はあるか?」
「服はこれしかないですね」
ハナは今着ている服に視線を落とした。
「じゃあ、服も何着か買っておこう。ちょっと待っててね」
ヴィムは立ち上がった。
リビングを出たところに居たジェームズに声をかける。
「ここら辺で武器屋ってある?」
「ございますよ。今、お書きしますね」
燕尾服の内ポケットから手帳を出すと、ペンでサラサラと書き込んで行く。
「ここでございます」
書いたページを破ると、手渡してくれた。
そこには住所と簡単な地図が書かれていた。
あのスピードでこれを書き上げたのだとしたら、ちょっと異次元なのかもしれない。
そう思うくらいに正確な地図が描かれていたのだ。
「ありがとう。いつも助かるよ」
「恐縮でございます」
ヴィムは貰ったメモをポケットに入れた。
見た感じ、ここからさほど遠くはない。
この屋敷の立地がかなりいいのがうかがえる。
そのメモを持ってリビングへと戻る。
「お待たせー。じゃあ、行こうか」
ヴィムはリビングのソファーで座って待っていたハナに言った。
「はい!」
ハナはソファーから立ち上がった。
「ちょっと出かけてくるわ」
ヴィムは庭に居たアーリアに声をかけた。
「かしこまりました。お気をつけて」
「うん、ありがとう」
屋敷を出るとまずは武器屋に向かうことにした。
ジェームズが描いてくれた地図の通りに進んでいくと、武器屋の看板が出ているお店を見つけた。
「ここだな」
ヴィムは武器屋の重たい扉を引いた。
「いらっしゃい!」
中に入ると、店主と思われる男の声が飛んできた。
店内はそこまで広いというわけではないが、パッと見た感じでは品揃えに申し分はない。
「何か探してるもんはあるかい?」
「ああ。この子の持つ片手剣が欲しい」
ヴィムはハナの背中を少し押して言った。
「ほう、お嬢ちゃんのかい。俺はここの店主やってるマルクスだ。よろしくな」
「あ、はい。ヴィム・アーベルです」
「やっぱりか。雰囲気から只者ではねえと思ったがな」
マルクスはヴィムの顔をじっと見て言った。
「私のこと知ってるんですね」
「なんたって、天下のSランク冒険者様だから。そんな方に店を使ってもらえるなんて鼻が高いぜ」
やはり、ヴィム・アーベルという名前が国中に広がっていると見た方がいい。
「でも、どうして私が只者ではないと?」
ヴィムは自分から発せられるオーラの類はできるだけ抑えているつもりだった。
「まあ、長いこと冒険者を相手に仕事してるとな、なんとなく分かっちまうんだよ。そいつの実力とかな」
これは感覚的なものらしい。
「なるほどな。それで、嬢ちゃんの片手剣だったな」
「はい、そうです」
「ちょっと待ってな」
マルクスはカウンターの奥へと入って行った。
「店頭には並べていないが、Sランク冒険者様のお連れさんだ。この辺がいいだろう」
カウンターの上に剣を何本か並べてくれた。
「あ、あの、持ってみてもいいですか?」
ハナが少し遠慮がちに聞いた。
「もちろんだ。手に馴染む馴染まないもあるだろうからな」
「じゃあ、これから」
ハナは一本一本剣を素振りして感覚を確かめていく。
「ほほう、結構いい剣筋だな」
マルクスはその素振りに感心した様子だった。
「ありがとうございます」
一通り見終わったハナは剣を置いた。
「値段とかは気にしなくていい。長く使うこと考えて選んでくれ」
「分かりました」
正直、ここで値段だけ選んで微妙な剣を使われても困る。
「じゃあ、これにします」
ハナは真ん中にあった剣を指さした。
「毎度あり」
マルクスは他の剣を仕舞うと、その剣をハナに渡した。
「いくらですか?」
「金貨2枚だ」
「これで」
ヴィムはポケットの中から金貨を取り出してカウンターに置いた。
「ちょうどだな。また何かあったら寄ってくれ。サービスするからよ」
「は、はい。ありがとうござます」
そう言うと、ヴィムたちは武器屋を後にした。
ハナは剣を大事そうに手に持っていた。
「気に入ったか?」
「はい! こんなに高価なものをありがとうございます!」
そうか。
奴隷だったハナにとっては金貨2枚の剣は高価なのだ。
一般人と同じ生活水準が保障されているとは言っても、それが完全に守られてはいないのが現状なのだ。
奴隷の立場はすごく弱い。
「じゃあ、次は服だな」
「分かりました」
ヴィムは次は呉服店に向うのであった。
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