第136話 ヴィムvsミサ
「講師をやるとは言ったが、何を教えようかな」
ヴィムの戦闘スタイルは強力な魔法が使えることが前提に構成されている。
これを真似できる人間は限られている。
「基礎から教えていくべきだと思いますよ。多少なりとも、戦闘の心得があると言っても、初めは基礎を押さえておくべきです」
隣を歩く、ミサが言った。
「確かに、ミサの剣筋は綺麗だもんな」
元騎士ということで、ミサの剣技は美しい。
変な癖がついていない、正確な剣だ。
まさに、ミサの性格がでた剣だと思う。
「ありがとうございます」
「私の剣は、我流が強いですから、ミサさんみたいな剣は羨ましいです」
確かに、ミサに比べてハナの剣には癖がある。
しかし、その癖とヴィムの魔法との相性が抜群にいいのだ。
「ハナの剣は俺からしたらありがたいけどな。なんというか安心感がある」
「嬉しいです」
ハナなら自分の背中を預けてもいいという、安心感がハナの剣にはある。
そういった人と巡り合えるのは、稀なことなので運命的な出会いをしたと思う。
「講習開始まで、一週間か。多少は鍛えていた方がいいな。ミサ、ちょっと俺と打ち合わないか? もちろん、お互いに直接相手にダメージを負わせる魔法は無しだ」
ミサがいつも屋敷の中庭で稽古していることは知っている。
「それは、さすがに私負けませんよ?」
「それは、やってみなきゃ分からんよ」
ヴィムはマジックバッグから、模造刀を取り出した。
「そのバッグにはなんでも入っているんですね」
「まあね」
「でも、それって真剣じゃありませんよね?」
「うん、模造刀だよ」
「それで私の真剣とやろうっていうんですか?」
ミサは鞘から自分の剣を抜いた。
「こうしたら、どう?」
ヴィムは模造刀に自分の魔力を流した。
元々、これは魔力伝導率が高い素材を使っている。
魔力を流すことで、その強度は真剣並になるのである。
「なるほど、そういうことでしたか」
ミサの口角が僅かに上がる。
そして、ミサとヴィムは屋敷の中庭で対峙する。
「ハナ、審判を頼む」
「わかりました。それでは、始め!」
ハナの声で、模擬戦が開始される。
合図と同時に、ミサが一直線に突っ込んでくる。
その剣筋は正確にヴィムの首筋を捉えていた。
ミサの剣をヴィムは剣で受ける事なく、躱す。
「今のを、避けるんですね」
「目はいいもんでね」
ヴィムもミサとの間合いを詰めて剣を振るう。
それを、ミサは剣で受け流す。
「魔術師というのはここまで剣を扱えるのですね。侮っていたかもしれません」
「じゃあ、本気で頼むよ」
「はい、こんなに楽しいのは久しぶりです」
「それはよかった」
お互いに間合いを保っている。
剣で受けては流し、再び攻撃を仕掛ける。
ヴィムとミサは互角の試合を繰り広げていた。
二人の顔には笑みが浮かんでいた。
「そろそろ、決めるか」
「望む所です!」
二人の間には張り詰めた空気が流れている。
そして、お互いが一気に間合いを詰める。
ヴィムの剣はミサの脇に、ミサの剣はヴィムの首筋で止まっていた。
「そこまで!」
相打ちで、試合終了の合図の声が響いた。
「「ありがとうございました」」
お互いに剣を引いて、一礼する。
「二人とも、さすがです! 見事な剣捌きでした」
「うむ、マスターの剣技は初めてみたが、ミサに付いていくほどだったとはな」
ハナとディアナがそれぞれ口にした。
「まさか、ヴィムさんがこれだけ剣を学んでいたなんて……感服です」
「いや、結構必死だったけどね」
ヴィムはその余裕がなくなるほどには必死に応戦していたつもりである。
「私もまだまだ、修行が足りませんね」
「お互いがんばろうな」
ヴィムは額の汗を拭きながら言った。
「ヴィムさんがこれ以上強くなったら、もう絶対に勝てませんよ」
「でもな、俺にも勝てなかった人がいたからな」
「そんな人がいるんですか?」
ミサは興味があるという視線を向けてくる。
「うん。俺の師匠、アーク・サンベルには一度も勝ったことがない」
異端の賢者と呼ばれた世界最強の賢者であり、ヴィムの魔法の師匠アーク・サンベルには、一度も勝ったことがない。
結局、ヴィムが一本も取れずにアークはこの世を去った。
「そう、だったんですね。そんなに強かったんですか」
「もう、戦えないのが残念だよ。師匠が生きていれば、もっとこの世界はマシになっていただろうな」
「ヴィムさんがそこまで言うっていうことはどれだけの人格者だったかが伝わります」
「うん、そうだね」
そんな話をしていると、空は茜色に染まっていた。
夕方の風は少し肌寒い。
ヴィムたちは屋敷の中へと入った。
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