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第120話 姫の涙

「妻を助けられるのか?」

「確実に助けられるという保証はできません。ただ、可能性はまだ残されています」


 ヴィムはマジックバッグの中から一冊の本を取り出した。


「これです」


 そこには、黄金の瓶に入った聖水の絵が描かれている。


「聖女の祝福……」

「これなら、悪魔の祝着を解くことができるかもしれません」


 聖女の祝福、それはこの世のどんな状態異常も回復する事ができると言われている聖水である。


「しかし、これは本当に存在するのか」

「一度だけ、見た事があります。師匠が亡くなる寸前に手にしていました」

「そうか、アーク氏が」


 聖女の祝福は滅多に手に入る代物ではない。

王族だろうが、見たことすら無い者がほとんどだろう。

だからこそ、その存在は御伽噺のような扱いを受けているのだ。


「ヴィムなら、それを手に入れることができるのか?」

「モールの大迷宮はご存じですか?」

「もちろんだ。死者を映す水晶があるという迷宮だろう」


 レオリア王国の南の辺境にモールの大迷宮と呼ばれる迷宮が存在する。

そこの最深部には死者を映し、対話することができる水晶があるのだ。


「はい、モールの迷宮の最深部に水晶と一緒に聖女の祝福があると言われています」

「本当か!?」

「ええ、おそらく、迷宮最深部の守護者を倒せば手に入るのでは無いかと」


 師匠からモールの迷宮最深部に《聖女の祝福》があることは聞いていた。

それが、今もあるのかは正直、賭けではある。

しかし、王妃を救うにはこの方法しか無いと考えられる。


「これは、国王としてでは無い。妻を愛する一人の男として頼みたい。妻を救ってくれ、頼む」

「お願いします!!」


 そう言って、陛下とエリンは深々と頭を下げた。


「二人とも頭を上げてください。最初からそのつもりですよ。絶対に王妃さまを助けましょう」


 ヴィムの言葉に、ハナたち三人も強く頷いた。


「ありがとう、本当にありがとう」


 陛下はヴィムの手を両手で握って言った。

その姿を見るに、陛下は王妃のことを心から愛しているのだろう。


 王族なら、側室を持っていることも多いのだが、陛下に側室はいない。

一途に王妃を想っているのだ。


「喜ぶにはまだ早いですよ。王妃さまが目を覚ましてからお礼は受け取ります」

「君って男は本当に……」


 陛下は目頭を押さえて天井を見る。


「時間がありません。僕らはすぐに動きます。また三人で笑える日が来るのを信じていてください」

「ああ、頼んだぞ。無事に帰ってきてくれ」

「深淵の魔術師に月光の騎士、光の精霊王にAランクの獣人冒険者のパーティがそこらの迷宮でやられるとお思いですか?」

「愚問だな」

「ですよね。準備が出来次第、出発しますので王都からしばらく離れることになります」

「わかった」


 ヴィムたちは王宮を後にする。


「マスター、流石に今回はいつも通りとはいかんかもしれんぞ」

「だろうな」

「そうなんですか?」


 ハナが、視線をヴィムに向けて言った。


「最上位クラスの迷宮だからね」


 《聖女の祝福》なんていう万能の聖水がある迷宮がただの迷宮であるわけが無い。

魔獣は強力だし、トラップの類も多いと聞く。

今まで、数多くの冒険者が負傷し、死者も出している迷宮である。


「マスターがそこまでして、あの王妃を助ける理由はなんだ?」

「エリンが泣いてたんだよ。助けて欲しいって言ったんだ」

「それだけか?」

「不十分か?」

「いや、マスターらしいよ」


 もうエリンの涙は見たくない。

瞬間的にそう思っていた自分がいた。


 俺が正義の魔法使いにかけた時間は無駄ではなかったのかもしれない。

誰かを救うことで、自分も救われる気がした。

自己満足かもしれないが、それでもヴィムは困っている人には手を差し伸べられる人間でいたい。


「そういうヴィムさんだから私たちは付いて行くと決めたんですよ」


 ミサはヴィムの隣をゆっくりと歩きながら微笑みを浮かべる。


「そうです! ヴィムさんはとても強くてかっこいいです!」


 ハナも自慢気に口にする。


 誰かの為に、何かの為に、強敵に立ち向かうのは並大抵の覚悟では務まらない。

ヴィムの信念はそれだけ立派なものだと言えるだろう。

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