第118話 王妃様
人身売買組織を壊滅に追い込んでからというもの、王都を始めとするレオリア王国内は平和が続いていた。
ギルド総括の仕事はあるものの、比較的のんびりと過ごさせてもらっている。
「マスター、暇だ」
リビングのソファーに座るディアナが不満げに口にした。
「俺たちが暇なのはいいことだろ? それだけこの国が平和だってことだ」
「そうなのだが、我はもっとこの力を使いたいのだ」
精霊として契約を結んだディアナは、制限が解除されているらしい。
よって、できることも増えているのだとか。
「俺たちが出向くようなトラブルがそうあってたまるかよ」
ただでさえ、ここの所は厄介事に首を突っ込んでいたのだ。
「旦那様、書簡が届いておりました」
「うん、ありがとう」
どうせ王宮からだろうと、封蝋にある紋章を確認する。
しかし、そこにあったのは見たことのない紋章であった。
「誰の紋章だろう」
「そちらは、国王陛下個人の紋章でございます」
「なるほど」
公的な文書には王家の紋章を使うが、個人的なことには個人の紋章を使うらしい。
ということは、これは陛下が個人的に送ってきているということになる。
丁寧に封を開けて、中身を確認する。
そこには、折り入って相談したいことがあると書かれていた。
詳細は、王宮にきた時に話すとのことらしい。
「王宮に行ってくるよ」
「かしこまりました」
ヴィムはハナとミサ、ディアナを連れて王宮へと向かった。
「陛下の個人的な相談って何なんでしょうね」
「面白そうな予感がするな」
ハナの疑問にディアナが嬉々として答える。
「まあ、平和的なものではない気がするよね」
陛下にこうして呼び出される時は大体、面倒なことを押し付けられる時だ。
でも、個人的に呼ばれるのは初めてのことなので気になるのはヴィムも同じである。
王宮に到着すると、ヴィムたちは応接間へと通される。
しばらくして、陛下とエリン王女が入ってきた。
「わざわざ出向いてくれてありがとう」
「いえ、構いませんよ。何か個人的な相談があるそうですが」
「ああ、そうなんだ。ちょっと付いてきてくれるか?」
「わかりました」
ヴィムたちは立ち上がり、陛下の後を付いて王宮内を歩く。
陛下とエリン王女の表情はいつもより暗い印象を受けた。
「ここは、王家のものしか入れないのだが、今日は特別にヴィムたちを招き入れる」
重厚な扉を陛下がゆっくりと開いた。
白を基調とした広い部屋にはただ天蓋付きのベッドが一つ置かれているだけであった。
そこには、一人の美しい銀髪の女性が眠っている。
「彼女は?」
「私の妻でエリンの母親だ」
「ご病気ですか?」
「これを見てほしい」
陛下は妻の体を起こし、後ろ髪を前に移動させる。
王妃の肩甲骨付近に、赤黒い魔法陣のようなものが浮かんでいた。
それを見て、ヴィムは陛下が何を見せたかったのがわかった。
「悪魔の祝着……」




