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第十七話 小心者の戦い その一

前話までのあらすじ。

竜の娘を竜皇の元に送り届けた小心者の騎士ディアン。しかし人の姿に変身している事に、竜皇は怒りと疑惑の目を向ける。その疑いを払拭するためという理由で、これまでの旅の記憶を魔法で引き出されてしまった。経緯だけでなく、隠していた心の動きまで全て明かされてしまった小心騎士は、竜皇国から生きて帰る事が出来るのであろうか?


それでは第十七話「小心者の戦い」お楽しみください。

「はっ!」


 急激に戻った視界に頭がふらつく。この七日間の記憶を一気に引き出され、酔ったような感覚に陥る。立ちっ放しの肉体的疲労と、自分の恥を再確認させられた精神的疲労で座り込みたい。


『くっくっく……! どうですか兄上! これが人間ですよ! いやぁ愉快愉快!』


 師匠が笑ってる。無理もない。自分が主人公だと言う事に目をつぶれば、こんな喜劇もそうそうないだろう。大した力もない一介の人間が、右往左往する様はさぞや滑稽でしょうね師匠。


『弱く、愚かでありながら、その中で最善を尽くそうとする姿! 自分の事さえ覚束ないのに他人を思いやり、力を尽くす! これが人間の素晴らしさ!』

『うむ……』

『成程……』

『人間と言うものを我々は理解していなかったのだな……』


 あれ、竜の皆様が納得してる? そんなに弱い人間が頑張る姿って竜にとっては心を打つのかな? じゃあルビナは……。


「……!」


 顔を真っ赤にして拳を握りしめ、目に涙を溜めて私を睨み付けている。

 私と目が合うと逸らし、走って扉へと向かう。


『ガネット!?』

『皇女様!?』


 竜皇や近衛兵が呼び止めるが、振り返りもせず部屋を出て行った。

 そう、だよな。いや、これで良かったんだ。

 嘘と隠し事で固めた道で、ルビナをここまで連れて来れた事自体が奇跡だったんだ。これ以上を望む必要はない。


『無礼を詫びねばならぬな』


 竜皇の声が柔らかくなっている。そんな事だけで涙が出そうになる。思った以上にルビナに失望された事が堪えているみたいだ。


『娘をこれ程の苦労の中、無事に送り届けてくれた事、感謝に堪えない』

『とんでもない事にございます』


 良かった。同衾や口づけ未遂は竜皇の逆鱗には触れなかったようだ。

 ……師匠、これ程の苦労のところで吹き出さないで。


『娘の態度にも得心がいった。このような経緯があったのでは、心酔も無理からぬ事。洗脳や脅迫などと返す返すも失礼であった。心から詫びよう』


 まぁつい先程幻滅されましたけどね! 自棄になりそうな気持を抑えて、交渉用の顔を必死で維持する。


『いえ、事情が伝わったのでしたら何よりです』

『そう言ってくれるか。感謝する。もう一つ、今の娘の態度も謝罪させてほしい』


 う。交渉用の顔が崩れそう。

 さっき私を睨んだ顔が頭をよぎる。


『娘はまだ成竜になっていないのでな。まだ幼さが残っている。後程落ち着いたらきちんと感謝と謝罪をさせよう』

『いえ、構いません』


 顔合わせたら面罵されるのかなぁ。辛い。でもまぁとりあえずこれで命は助かった。

 ルビナがこれで私を必要としなくなったのであれば、大使を願い出る事もない。

 平穏な日常が戻ってくる。それで良しとしよう。

おまえもしかしてまだ 自分が逃げられるとでも思ってるんじゃないかね?


読了ありがとうございます。


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