第十六話 怒れる竜皇 その五
竜皇は、ルビナを守る様に抱き寄せながら、私へと怒りの目を向ける!
いやぁ! その視線だけで死にそう!
『こんなに早く連れて来たのもおかしいと思っていたのだ! 我が娘を捕らえ、洗脳し、こちらが書状を出すのに合わせて連れて来たのだろう! そうでなければここまで人間に心を傾けるなど有り得ぬ!』
そんな意図は全く無いです! 偶然です!
でも監禁からの解放って意味では間違ってない!
どう弁明すればいいんだこれ!
『それは違いますよ兄上。人間とは実に素晴らしい。我が姪が心酔するのも止むを得ない程に、ね』
『エーメルド! お前、何を!?』
師匠! まさか私をかばって!?
一瞬ありがとうって思いかけたけど、今回の騒動の主な原因は師匠ですよね!
責任取ってください!
『馬鹿な! 暇さえあれば同胞同士で騙し、憎み、殺し合うようなものにそんな価値などあるものか!』
『人間の価値とは正にそれです』
『何!?』
『同胞で疑い合い、争わなければならないその弱さ、愚かしさ。それを悔いて、乗り越えていくその姿にあるのです』
竜皇の怒りの勢いが弱まる。師匠の話に興味を持ったのだろうか。
『弱く愚かなものがそれを乗り越えたとして、それは負を無にしただけの事。認めるには値しない』
『逆に言えばそれは生まれながらにして力と誇りを持つ、我等竜族には成し得ぬ強さと言う事ですよ』
『むぅ……』
師匠が人間を擁護してくれている。
人と竜族が対等な世界を目指すと言うのは本気なのか。
頑張って師匠! 願わくば私への誤解も解いてください!
『その弱さや愚かしさを刺激し、どのように成長するのか、それとも成長できず沈んでいくのか、それを見て楽しむのが人間との付き合い方なのですよ』
おっと師匠の風向きがおかしくなってきたぞ。
それは弱く愚かな人間をいじり倒して遊ぶって言ってませんかね。
どっちを応援するべきか分からなくなってきた……。
人間と書いておもちゃと読まないで。
読了ありがとうございます。