第十六話 怒れる竜皇 その四
胸の中のルビナをひとしきり撫でた所で、ひょいと持ち上げ、目の前に置く竜皇。
じいっとルビナを頭から爪先まで何度も眺める。
『しかし何故人間の姿などに変化しておるのだ?』
『それは私が人間の王国の相談役を務めているからです』
『お前の話は聞いてない!』
ひぃ! やっぱり恐い! 師匠の軽口に上げた怒声は、感動の再会に緩んでいた心を締め上げるのに十分だ!
『ガネット、人間の姿を取っているのは何故なのだ?』
『それは、私がディアン様の旅のお供をさせていただいているからです』
『ディアン・オブシ……。確か数日前に王国からの書簡を持ってきた騎士、であったな』
竜皇の目がこっちに向かう! 覚悟をしていたつもりでも、心底肝が冷える!
だが特使という事を覚えていて貰えているのは有り難い! 私は恭しく膝をついた。
『先日はお時間を頂戴し、誠にありがとうございました。あの後、王国へ帰る途中皇女殿下を保護し、お連れいたしました次第でございます』
『そうか、貴殿が我が娘を保護してくれたのか……』
竜皇の声の張りが少し緩む。
『同胞を救ってくれた事を竜皇国の長として、娘を救ってくれた事を父として、このアレク・サン・ディライト、心よりの感謝を申し上げる』
『勿体ないお言葉でございます』
何とか声を出せた。これで助かった……。
『それで、我が娘に人の姿を取らせたのは貴殿か?』
まだだった! 口調こそ穏やかだけど、押し殺した怒りを感じる!
一言間違えたら消し炭にされかねない!
『いいえ違いますお父様! 私が自ら人の身へと姿を変えたのです!』
それを察したのかルビナが私を庇う。
情けないけど助かる! ありがとうルビナ!
『何故だ? お前が自ら誇りある竜の姿から人の身に姿を変えるなど……』
『ディアン様の旅の供としてこの姿を取ったのです』
ルビナの言葉に、竜皇がくわっと目を開く。
驚きと、恐らく怒り……。
『人間の供だと!? 一体何をされたのだ!? そこまでせねばならない程の事をこの騎士から受けたのか!?』
『その通りです! ディアン様は私の救いです! 希望です! 生きる意味です! それだけのものを私に与えてくださいました!』
『何と……!』
ずれてるよルビナ!
ルビナは馬と交換した件とか食べ物や服や首飾りの事を言ってるんだろうけど、事情を知らない竜皇は、娘が逆らう気力も無くなるような酷い目に遭った結果こうなったと思ってるよ!
いやまぁそれは事実なんだけど、私がやった訳じゃないんです!
『ディアン・オブシ! 我が娘に何をした! 洗脳か! 脅迫か!』
ぎゃあ! やっぱりこっちに矛先が向いた!
違うんです! 意図してやった訳じゃないんです!
ルビナの誇りを取り戻すべく色々やったけど、私にも何故こんな洗脳じみた結果になってしまったのか分からないんです!
『ディアン様は洗脳や脅迫などなさっていません! 私は私の意思でディアン様と共に在るのです!』
『哀れな……。ガネット、お前は騙されているのだ……』
私を庇うルビナを優しく撫でる竜皇。父親らしいその慈愛の瞳。
……あぁ、でもそれは、当然、元凶だと思う私へ向くと、怒りとなりますよねえええぇぇぇ!
あぁ恐い! 膝が震える!
竜皇 怒りの咆哮。
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