第十六話 怒れる竜皇 その三
足元が土から石畳に変わったと思ったところで、光が収まった。
徐々に視界が回復して、周囲の状況が見え始める。
ここは、建物の中か? やけに大きな造りの部屋だけど、あれ? もしかして、直接……?
「さて、着いたよ」
戸惑う私に構わず大きな扉を開ける師匠。
ルビナと共に慌てて付いていくと、見た覚えのあるだだっ広い廊下に出た。
突き当りの大きな扉にも見覚えがある。しかもほんの数日前に。
ちょっと、これ、そこって、もう……?
「さ、行くとしようか」
ちょっと待ってと言う暇もなく、開かれる扉。
そこには練兵場のような大きな部屋、その奥に飾り気のない数段高いだけの玉座、そしてそこには……。
『……何者だ』
『ご無沙汰しております兄上』
『……? 貴様! エーメルドか!』
『はい』
玉座の竜皇が身を起こした! ぎゃあ! その動作だけで滅茶苦茶恐い!
隣にルビナがいなければ全速力でこの場から逃げ出したい!
『国を捨てた身で、今更何をしに戻って来たのだ。我が弟よ』
『兄上の心配事を解決しに参ったまでですよ』
『心配事の解決、だと?』
『我が姪を連れて参りました』
『何! どこに……、まさか、その、人間の娘が……!?』
目を見開く竜皇。
そう言えば以前ルビナが師匠に会った時にも、言われるまで自分の叔父だと分からなかった。
身体変化の魔法は竜にもすぐには見分けが付かないのか。
名乗れば分かると言う事は、何か外見以外に識別する要素があるんだろうけど。
『お父様……』
『おぉ、おぉガネット! 無事であったか! 良かった! 良かった……!』
心からの喜びを表す竜皇には、竜の長としての威厳はなく、ただただ娘を心配する親の想いだけがあった。
……良かった。竜族の恥なんて言われて拒絶されたらどうしようかと思った。
『ご心配をおかけしました……』
『いや無事であれば、無事であれば良い……!』
『! ……お父様ぁ!』
玉座に駆け寄るルビナ。それを大きな手で胸に抱き寄せる竜皇。
あぁ、感動的だ。ルビナが人間の姿のせいで生贄に見えなくもないけど。
『あぁ我が愛し子よ! 怪我はないか? 病はないか? 魔力は充実しているようだが……』
『大丈夫です! とても優しい方に保護して頂きましたので……!』
『そうか、そうか……!』
何度も頷く竜皇。涙でその胸を濡らすルビナ。
あぁ、これだけで私のこれまでの苦労が報われる。
しばし私は親子の心温まる再会に、目を細めていた。
お探しの娘さんですが……、見つかりました! お越し頂いています! どうぞ!
読了ありがとうございます。