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第二話 言葉とご飯と水浴びと その二

「ごちそうさま」

「……ごちそうさまでした」


 見事完食したルビナは、私の食後の挨拶を真似て手を組む。

 ……うーん、長い。竜にも食べ物への感謝の祈りはあるのだろうか。

 ともあれルビナにとって良い食事であったなら良かった。助かった。


「では行こうか」

「分かりました」


 わ! 立ち上がる瞬間はだける外套の裾! 駄目だ、これは服を買うまで待てない!


「待て。そのまま横を向いてくれ」

「はい」


 ルビナが私に向かって右を向く。短剣を抜くと、外套の右肩辺りを軽く切り裂く。あぁ、後で縫い直さないとなぁ。


「ここから腕を出すと良い」

「はい。……出来ました」


 うわ、細くて白い。外套が濃い色だから余計に腕の美しさが際立つなぁ。って見とれてる場合じゃない。背嚢から紐を取り出し、両手を広げた位の長さで切って手渡す。


「これで腰の辺りを縛ると良い」

「分かりました」


 これでいきなり肌が見える事も無いだろう。一安心。

 紐の残りを背嚢にしまい、敷物を畳もうとするとルビナが反対の端を持とうとする。え、何、何するの!? かろうじて敷物の端を取り落とすのは免れた。


「どうした」

「あの、お手伝いしてよろしいですか」


 あぁ、手伝いか。何をされるのかと思った。

 近づかれるのは恐いが断るのも恐い。仕方ない、頼むとしよう。


「ありがとう。頼む」

「はい」

「……んっ」

「どうかなさいましたか」

「いや」


 端を手渡すために近づいてきたルビナから香る芳醇ほうじゅんな馬小屋の匂いに、反射的に息を止める。仕方がないか。ずっと馬小屋で生活してきたんだもんな。

 しかし町で服を買うとなると、これでは試着も断られる。敷物をしまうついでに地図を出して、と。


「ふむ、川はこっちか。ルビナ、水浴びをしよう」

「……分かり、ました」


 目に怯えの色が浮かぶ。


「どうした」

「いえ、水浴び、ですよね。……大丈夫です」


 あ! そうか! 村ではきっと馬と同じ水浴びをさせられていたのだろう。水をぶっかけて硬い刷毛はけでこするあの作業は、嫌がる馬も多い。


「大丈夫だ。村での水浴びと同じことはしない」

「ありがとうございます」


 表情は変わらないが、どことなく安堵したように見える。しかしそうなると冷たい川で身体を洗わせるのも、嫌な記憶を呼び起こしかねないな。

 となるとかなり手間だが……。

腕なし案山子から腕あり案山子へ。


読了ありがとうございます。

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