第十五話 契る夜 その四
涙を流すルビナに、私は動揺を隠しながら問いかける。
「どうしたルビナ。何故泣く」
「……私に使ったお金がディアン様の大事な物だと聞いて、お返ししなければ傍にいられなくなると思いました……」
それであの必死な身体の提供だったのか。
ごめんルビナ、酒が入ると本当に配慮が足りなくて。
「ですがディアン様はその大事なお金よりも私と過ごす時間に価値があると言ってくださいました。それが嬉しくて……!」
良かった。伝わった。
やはり真実は強い。本音を話して正解だった。
「これで私、ディアン様と恋人になれたのですね……!」
え、何それ。
「嬉しいです! ディアン様から好いて頂けているなんて……!」
あ! 私が大事と言っていた貯金より優先したから、ルビナは自分が好かれていると思ったのか!
えっと間違っちゃいないような、致命的に間違っているような。
……否定するべきだろうか。否定したら泣き崩れるかな。
いや、今のルビナなら前向きに捉えてくれるかも知れない。その可能性に賭けよう!
「これでこの先、しばらくディアン様の傍にいられなくても頑張れます……!」
無理だ。こんな健気な事言われたら否定できない。
でもせめて竜皇様の前での恋人宣言だけは防がないと。
……誤魔化して乗り切りたくないと思ったさっきの自分、ごめん。命には代えられない。
「ルビナ、恋人関係になった事は、あまり人に言わないようにな」
「何故ですか?」
「周りに自分達が恋人だと言って回るのは、慎みが無いと思われる事がある。そのためだ」
「分かりました」
素直なルビナの事だ。これで口を滑らす事もないだろう。
「そう言えばあのお菓子屋の店主の方も、私達の行動を見て恋人と思ったと言っていました。恋人と言うものは行動で示すものなのですね」
助かったのか更に追い詰めれているのか分からない!
「ディアン様、恋人になったらどのような事をするのですか?」
追い詰められてる方だった! 恋人が一つの寝台でする事と言ったら、もう、そういう事しかないけど、そんなの言える訳がない!
……大人しくしてろ男の本能! ちょん切るぞ!
「お菓子屋の店主の方は口づ」
「恋人に証など必要あるまい。心のありようなのだから」
「! ……そう、ですね……!」
王国騎士の皆様、騎士の心得をこんな事に流用してごめんなさい。助かりました。
「……ディアン様が、私を、好きで……、私がディアン様を好き……、それで十分です……!」
噛みしめる様にそう言うと、私の胸に顔をうずめてきゃーと小さく叫んでいる。
可愛い。けど苦しい。色んな意味で。
勘違いは危険な領域へと突入する。
読了ありがとうございます。