第十五話 契る夜 その三
「ディアン様!」
ごふぁ! 声と共に胸に衝撃が! 見るとルビナの頭が私の胸の上にある! 飛びつかれたのか! 何だ急に!?
「どうか失ったお金の代わりに私の身体をお使いください!」
金の代わりに身体をってどういう意味!? そういう意味!?
そんなふしだらな借りの返し方、教えた覚えはないぞルビナ!?
「鱗でも爪でも牙でも、……あの、目でも売ってください! 時間はかかりますけど魔力さえあれば再生しますので!」
ひえええぇぇぇ!? 身体を使うってそっち!?
良かった! いや良くない!
「私のためにディアン様が失うばかりなんて申し訳がありません! どうかディアン様!」
怖い位の必死の訴え!
気持ちは嬉しいけどそんなの受け取る訳にはいかない!
何とか誤魔化さないと!
「ディアン様、どうか……!」
ルビナの目は、零れそうな涙を湛えながらも強い意志を宿して輝いていた。
「ルビナ……」
誤魔化そうと思えば恐らく何とかなる。ルビナは私の言葉をちゃんと聞くし、人間の社会の事に関しては非常に疎い。
その上自慢では無いが、私は詭弁の腕ならなかなかのものだと自負している。本当に自慢にならないけど。
ルビナを煙に巻く事自体は、赤子の手を捻るようなものだろう。
……だが私は自分に問う。この真剣な思いを誤魔化しで乗り切るのは正しいのか。
全てを明かす事は出来ないが、正直な気持ちだけでも伝えるべきじゃないのか。
「落ち着けルビナ」
「でもディアン様……」
ルビナの必死な視線を、私は正面から受け止める。
「確かに私の貯金は減った」
「……はい……」
「それを惜しむ気持ちも無くはない」
「……も、申し訳、ありません……」
「だが失ったばかりではない」
「え……?」
ルビナの目から一瞬張りが緩んだのを感じた。
今だ! 一気に気持ちを流し込む!
「ルビナと過ごした楽しい時間、ルビナが喜ぶ顔を見れた事、それは支払った金よりもはるかに価値のあるものだ」
「!」
ルビナの瞳から涙がこぼれた。あれ!? また何か間違えたか私!? どうしよう!?
女将さーん、騎士様がまたあの子泣かせてまーす。
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