第十五話 契る夜 そのニ
私の好きなもの、好きな事……。
「高い所は好きだな。今日登った城壁の上の様に、見晴らしが良い所は気分が良くなる」
「私もですぅ。あの夕焼けは綺麗でしたねぇ」
う、いかん。このままだと口づけの話に触れてしまう可能性がある。話題を変えなければ。
「それと、そうだな。食べ物なら厚切り肉が好きだ」
「!」
息を呑むルビナ。あれ? 私そんなに変な事言ったかな?
「町で私が厚切り肉を頂いた時、ディアン様も本当は召し上がりたかったのですか……?」
しまった! そう取られたか! いやまぁ事実だけど!
「いや、そうでは無い。自分の好きな物だからこそ、ルビナに味わってほしかったのだ。無理をしていた訳ではない」
「そう、なのですか?」
心配そうな顔。何とか納得させないと!
「ルビナも美味しい物は分け合ったり共有したりしたいと言っていただろう。それと同じだ」
「確かにそうですねぇ」
良かった。納得してくれた。危ない危ない。
「次は一緒に食べましょうねぇ」
「そうだな」
「他には好きな事ありますかぁ?」
そう言われても大した趣味もなく、騎士の仕事に右往左往する毎日だ。
好きな事、生活の支え……。
「貯金、かな」
「ちょきん、ですかぁ?」
ぽかんとするルビナ。そう言えば竜族には蓄財の概念が無いんだっけか。
魔力で様々な事を行うため、元々あまり物を必要としない上、必要な物があれば口約束だけで取引が可能だからだそうだ。
力や魔力だけじゃなく精神性でも人間は遠く及ばないなぁ。
「貯金とは金を貯める事だ。工夫して節約し、金が増えるのが中々に楽しい」
「っ!」
さっきより驚いた顔をするルビナ。
確かに騎士らしくない趣味だし、仲間内からはからかわれる事も多いけど、そんなに驚く事か?
「……私、この旅でディアン様に沢山のお金を使わせてしまいました……。申し訳ありません……」
あああぁぁぁ! またやってしまった! 酒飲むとやはり私は駄目だ!
「あの時の厚切り肉も、ディアン様の分を一緒に頼めば美味しさをより共有出来たはず……。それをされなかったのは、少しでもお金を使わないようにする為だったのでは……」
正解! 慧眼! だけど褒める訳にはいかない!
何と誤魔化そうか……。
「あぁ、その事だが、実は……」
国から金が出ているからと話すか、見識を広める為の先行投資とするか、それとも……。
酒のせいで駄目になるのではなく、酒のお陰で駄目さが分かる。
読了ありがとうございます。