第十五話 契る夜 その一
前話までのあらすじ。
自らの意志を取り戻した竜の娘と共に、竜皇国へ行く事になった小心者の騎士ディアン。宿の女将の計らいで、竜の娘の壮行会に巻き込まれたが、竜の娘の桁外れの酒量で何とか宴は乗り切れた。だがまだ夜は終わらない。小心騎士と竜の娘の夜の行方は如何に。
それでは第十五話「契る夜」お楽しみください。
「ふぅ」
「お水、ここに置きますねぇ」
「あぁ、早速一杯貰えるか」
「はぁい」
抱き付くだの何だのを思い出されないように、寝台に腰掛けると水を頼む。
ルビナは素直に水を汲んで持って来てくれる。
「どうぞぉ」
「あぁ、ありがとう」
隣に座るルビナ。う、近い。膝が触れ合う距離だ。
演劇が終わった辺りから、私への距離がどんどん近くなっている気がしていたが、ここに至って距離は全く無くなっている。
酔っているからか、明日の別れの不安を接触で埋めているのだろうか? それとも好意か、それ以上の……、と自惚れに流されそうになる気持ちを水で飲み込む。
たとえそうだとしても、私の行動は変わらない。
「楽しかったですねぇ」
「そうだな」
私から受け取った器を水差しの横に戻すと、ルビナは先程のように腕に絡みついてくる。
うぅ、自惚れがまた顔を出す。
嫌われるより好かれた方が良いのは言うまでもないが、別れた後の事を考えると不安が残る。
……柔らかいし良い匂いだし、嬉しくない訳じゃないけど。
「ルビナ、眠くないか」
「少し眠いですけどぉ、まだもう少しディアン様とお話ししたいですぅ」
まぁ明日には一時的にとは言え、別れるのだから気持ちは分かる。
旅の終わりの夜とは、何となく寂しい気持ちになるもんだ。
とは言えあまり長く起きているのも良くない気がする。ここは……。
「では寝台に横になって、眠くなるまで話をするか」
「はぁい」
話しているうちになし崩しで寝る、これが最良だろう。
「やっぱりディアン様のお側は安心しますぅ」
う、寝台に横になると、ルビナが当然のように腕に絡みついてくる。
目と鼻の先にルビナの顔。耐えるんだ私。今夜一晩の辛抱だ。
「何の話をしようか」
「ディアン様の事が聞きたいですぅ」
私の事? 面白い事なんて大して無いけど。
「私の何を聞きたい」
「ディアン様の事でしたら何でも知りたいですぅ」
「何でも、と言われても困る。何か話題を決めてくれ」
「ではぁ……、ディアン様のお好きな物を教えてくださぁい」
好きな物か。無難で有り難い。何を話そうかな。
傘が無い時に雨が降る様に、安心してる時が一番危険。
読了ありがとうございます。




