第十四話 酒が呼ぶは凪か嵐か その七
客達は三々五々に引き上げていく。私達も長居は無用だ。
「さ、明日は早い。そろそろ部屋に戻るぞルビナ」
「はぁい」
下手な事を言われる前に引き上げるのが吉だろう。
「今日はありがとなルビナちゃん!」
「ありがとうございます!」
「騎士の兄ちゃん、ルビナちゃんを大事にな!」
「……心遣い、感謝する」
客達の声に答えながら食堂の出口へと向かう。
「あ、騎士様。明日の朝食は遅めに用意しておくからねぇ。ごゆっくり」
「普通で構わない」
「大丈夫! 分かってるからさぁ!」
何も分かってない!
明日早いって言ってるだろうが女将!
今夜は何も無いんだ!
「あぁルビナちゃん。お部屋に水差しを持ってっておくれ」
「分かりましたぁ」
水差しを受け取るルビナ。
と、渡しながら耳打ちをする女将。
おい待て今何を吹き込んだ!
「お待たせしましたぁ」
ルビナに照れたり恥ずかしがる様子は無い。大した事は言われていないのか?
だが油断は禁物だ。ここから先は、用心し過ぎると言う事は無い!
「ルビナ、女将に何か言われたか」
「はぁい。私から積極的に行くように、と言われましたぁ」
良かった。その程度なら誤魔化せる。
「あぁ、積極的に水を飲むようにという事だな。酒を飲んだ後は水を多く取ると体調不良を避ける事が出来るからな」
「そうなんですねぇ。分かりましたぁ」
よし、誤魔化せた。
「あとぉ、部屋に入ったら最初に抱き付きな、と言われたのですがぁ、よろしいですかぁ?」
おいいいぃぃぃ! よろしい訳あるかあああぁぁぁ!
こんなほろ酔い状態で抱きつかれて、男の本能が暴走したらどうするんだ!
それを狙ってるんだろうけど!
「水差しを持ったままでは危ない。やめた方が良いな」
「分かりましたぁ」
本当に危なかったあああぁぁぁ! 素直で助かったあああぁぁぁ!
後は水差しを置いた後は、着替えとかを口実に距離を取って……!
「寝る時は一緒ですものねぇ」
そうですねえええぇぇぇ! 寝台は一つですもんねえええぇぇぇ!
問題を先送りしただけだった!
こうなればお酒の力でとっとと寝てしまおう!
寝付きが良いのは私とルビナの最大の美点!
「ディアン様ぁ。楽しかったですねぇ。すぐ寝るのが勿体無い位に……」
気持ちは分かるけど、そんな事言われても困る!
今夜は何も無い! 何も無いんだ!
今夜こそお楽しみですよね?
第十四話終了となります。
読了ありがとうございます。
次話から第十五話「契る夜」になります。
今後ともよろしくお願いいたします。