第十四話 酒が呼ぶは凪か嵐か その五
盛り上がった客達が、私やルビナの器に酒を注いでいく。沢山の料理に囲まれ、二人並んで様々な人から酒を注がれていくこの状況はまるで……、馬鹿か私は。何を考えている。
「まぁ! 何だか結婚式みたいねぇ!」
「おぉ、そう言われれば!」
「お似合いだよお二人さん!」
あああもおおおぉぉぉ! 考えないようにしてたのにいいいぃぃぃ!
「結婚式、ですかぁ?」
ルビナの問いに血の気が引く。ルビナが結婚を生涯を共にする関係だと知ったら、いや結婚を恋人の更に上位の関係だと認識しただけでも危険だ。
万が一、私と結婚したい、などと竜皇の前で言おうものなら、娘のために国の前例すら変えた父親が何をするか想像したくもない! ここは誤魔化すしかない!
「頂いた酒で恐縮だが、改めて乾杯」
「かんぱーい!」
「乾杯ですぅ」
「さぁルビナちゃんも騎士の旦那も飲んで飲んで!」
「ルビナ、頂くと良い」
「はぁい」
「ルビナちゃーん! こっちにもおいでよー!」
「行っていいぞ。今夜は目一杯楽しむと良い」
「分かりましたぁ」
よし、このまま結婚式からただの飲み会に雰囲気が変われば助かる。だが酔い潰れる訳にもいかない。
……この手はあまり使いたくなかったが、手段を選んでいる余裕はない。卑怯者と笑わば笑え。
「女将」
「何だい?」
ルビナにつられて客が離れた隙を見て、女将を呼んで耳打ちをする。
「酒の空き瓶に水を入れて持って来て貰いたい」
盛り上がっている酒の席で水を頼むのは、正に水を差す行為。店にも客にも良く思われない事は重々承知している。だが今の女将になら通るという確信がある。
「……あぁ、分かったよ。酔い潰れちゃったら今夜困るもんねぇ」
ほらね畜生。
「この会もなるたけ早く切り上げるからさ。ルビナちゃんと上手い事やるんだよ?」
そう言いながら厨房に戻る女将。だがその言葉は信用できない。
だってその樽だろ? ルビナを見越して買ったのが、酒蔵か祭りでしかお目にかからないその大樽なんだろ? 安い買い物じゃなかったはずだ。
女将の商売人振りからみて、少なくとも元を取るまでこの会は終わらないだろう。
「あいよ! たっぷり飲んどくれ!」
女将から受け取った水を酒が半分残った器に注ぐ。
……うぐ、やはり薄めた酒は不味い。だがこの不味さと水分が最後まで戦い抜く力になる。覚悟を決めてもう一口、口に流し込んだ。