表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/126

第十四話 酒が呼ぶは凪か嵐か その四

 焼き魚を頬張り、ルビナはうっとりと微笑む。


「美味しいですねぇ」

「あぁ、そうだな」


 本当に美味い。

 女将から、今日は店から適当に出すから任せて、と言われたので、予算は伝えた上で任せたが、品数といい、質といい、これは本当に予算内で収まるのか?


「ディアン様ぁ、これ初めて食べますけど美味しいですねぇ」

「揚げ鷄だ。これはそのままでも勿論美味いが、この生野菜のかけ油を少し付けると、違った美味さが味わえる」

「やってみますぅ! ……わぁ! 美味しい!」

「かけ油の酸味が、鷄の旨味を引き出すのだ」

「ディアン様は何でもご存知なんですねぇ」


 そんな事は全く無いんだけど、料理に関しての知識は、商人時代の経験と、師匠に色々付き合わされたから、これだけは人並み以上にあると思ってる。

 これまでは自分の食事を少し豊かにする位だったけど、今ルビナがそれで喜んでいる。人生に無駄な事は無いって本当だと思う。


「ディアン様ぁ。これは挽肉焼きに似てますけどぉ……」

「肉団子だ。気付いた通り、挽肉を丸めたものだ。ただしこれは煮込んである。焼いた物とはまた違う味わいだ」

「美味しそうですぅ。いただきまぁす」


 肉団子を頬張り、蕩ける様な顔をするルビナ。

 そして酒の器を取る。そう、それが正解だ。


「ふわぁ……。ディアン様が教えてくださった通りですぅ。お肉の脂をお酒で流すと、本当に美味しいですねぇ……」

「嬢ちゃん、通な飲み方知ってるねぇ!」

「こっちの脂の乗った魚も試してみなよ!」

「はい! いただきます!」


 よしよし、ルビナも楽しめている様だ。

 少しでも良い思い出を、その目論見は一応上手くいっているな。

 これで私以外にも心を許せる人が居ると気付けたら、私への依存も薄められるんだけど、


「ディアン様ぁ。この薄いお肉、一緒に食べましょうねぇ」


 今夜だけでは無理だろうなぁ。


「これは生野菜を間に挟むと良い」

「あ! ディアン様ぁ。これを麦餅に挟んでも良いですかぁ?」

「あぁ、やってみると良い。その時には肉のかけ汁を麦餅に吸い取らせると味が際立つ」

「やってみまぁす」


 自分なりの工夫をし始めるルビナ。それはやはり成長の証だ。

 今夜でなくても、きっといつか私から離れて生きて行く事が出来る様になるだろう。


「これも美味しいですぅ」

「良かったな」

「ディアン様ぁ、どうぞぉ」


 え。


「お! 良いなぁ兄ちゃん!」

「手づからとは羨ましいねぇ!」


 差し出される肉野菜入り麦餅。昼間の菓子の悪夢が蘇る!

 いや、あの時は慌ててそのまま口を付けてしまったが、手で受け取って食べれば良いだけの話だ。


「ありがとう、ルビナ」

「あ……」


 手で受け取ろうとすると、表情を曇らせるルビナ。え、ちょっと、まさか……。


「鈍いねぇ騎士様。そう言う時は口で受け取るもんでしょうが」


 いや、そんな事、無いよな、ルビナ?


「ディアン様ぁ、どうぞお口を……」


 何でえええぇぇぇ!?


「先程菓子を私の手から食べてくださった時、より美味しさを共に出来た感じがしたので……」


 軽率だったさっきの自分を叱り付けたい!


「……お嫌、ですか……」


 ……止むを、得まい……!


「……うむ、美味いな……」

「ディアン様……!」

「おー! いいぞ兄ちゃん!」

「それでこそ男ってもんよ!」

「ぎりぎり合格点だねぇ騎士様」


 はやし立てられながら、私は麦餅を酒で飲み込んだ。

 顔の熱さは酒のせいだろう。そうに違いない。 

知らなかったのか? あーんからは逃げられない……!


読了ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ