第十四話 酒が呼ぶは凪か嵐か その三
「おぉ! いいぞー! 飲め飲めー!」
「ルビナちゃん! 次はこっちー!」
「ありがとうございます! いただきます!」
ルビナはあちこちの卓に呼ばれては酒を振る舞われている。
客達はルビナの飲みっぷりと、返杯でルビナに注がれる酒に喜んでいる。
ルビナは酒を飲めて、客は楽しめて、店は儲かる。
商売の方法としてはかなり優秀だ。
「今夜は大変ねぇ、騎士様」
女将が私の肩に手を置いて、にやりと笑う。
誰のせいだと思ってるんだ!
「大変なのは客達の財布の方だろう」
「あらぁ、違うわよ!」
肩をばしばし叩かれる。痛い痛い。何が違うんだ。
「ルビナちゃん、帰って来た時の顔つきが違っていた。朝までの騎士様になら何をしてもらっても嬉しいってのはそのままに、騎士様が喜ぶ事をしようって決意が滲んでた」
心がぎくりと跳ねる。
確かにさっき城壁の上でそう言われはしたが、女将の客を見る目が肥えているとしても、あっさり看破できる程ルビナの決意は固いのだろうか。
「女ってのは決意一つで変わるもんよ。騎士様がそうさせたんでしょ? ちゃんと受け止めてあげなよ」
「……そうだな」
そうだ。私がルビナの自立を望んだのだ。
その結果私の苦労を分かち合う事をルビナが望むのであれば、騎士の、いや男の矜持にも目をつぶろう。
「じゃあ今夜は騎士様、寝れそうにないねぇ」
え? ルビナの厚意を受け止める覚悟はもう出来たから、煩悶で寝れないなんて事は無いが。
「受け止めてくれるって分かったら、ルビナちゃんの方から積極的に迫ってくるよ! 憎いねこの色男!」
はあああぁぁぁ!? 今夜は大変ってそっちの意味!?
「それは誤解だ。ルビナから私の仕事を手伝いたいという申し出が先程あった。女将が感じた決意と言うのはその事だろう」
「ありゃ、そうだったのかい? あたしゃてっきりそういう決意だと思ったのに」
「だが決意を固めているのは事実だ。慧眼だと思うぞ」
ふぅ、やれやれ、何とか事なきを得たか。
「ディアン様ぁ」
「ルビナ、どうした」
「ちょっと休憩ですぅ」
そう言いながらルビナは隣に座る。
見ていた感じでは昨日の量の半分を少し超えたといったところだが、今日は疲れているんだろうか?
あまり無理をさせない方がいいかな。
「えへへぇ……」
なっ、何故、腕に、からみつく!?
「やっぱりディアン様のお傍が一番ですぅ」
「あらあらぁ!」
女将がやっぱりあたしの思った通りじゃないって顔をしているが、違う! これはただの甘えで、よせルビナ! 頬をこすりつけるんじゃない!
さっきの女将の妄言のせいで、男の本能が!
「お、憎いね色男!」
「兄ちゃんも飲め飲めー!」
出来上がっている客達が私達を囲む。
ルビナが腕に絡みついていて、逃げる事は出来そうにない。
「……いただこう」
「そう来なくっちゃ!」
諦めて私は器を持った。
この展開には女将さんもにっこり。
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